エピクロスのいう快楽とは?

 さて、エピキュリアンという言葉を聞いたことがあるでしょうか。

 快楽主義と訳されています。

 これはエピクロスの哲学から生まれた言葉です。

 しかしエピクロスが主張した快楽主義とは、美味美食や美酒に心を奪われ、恋人に夢中になる日々をすごすことではありません。

 エピクロスのいう快楽とは、一時的現世的感覚的な快楽ではありません。

 その真逆であって身体的に苦痛を感じることがなく、精神的に不安がない静かな状態でいることです。

 そのような「魂が掻(か)き乱されていない静穏な状態」を、エピクロス派の哲学では「アタラクシア」と呼びました。

 平たく言えば「心の平静」です。

 このようなアタラクシアを実現する人生が幸福である、とエピクロスは考えました。

 ではなぜ、人は贅沢な食事やおいしい酒に惹かれ、恋人に魅せられ、お金持ちになりたいとか偉くなりたいとか思うのでしょうか。

 人の心には、そういう現世の快楽に影響されてしまうパトスがあるからです。

「パトス pathos」というギリシャ語の原義は「蒙(こうむ)る」の意味。

 苦しみを受ける受難や、激しく心を動かされる激情のような感情的な精神を表現する言葉です。

 ここからパッション(激情、情熱、情念)という英語が生まれました。

 なお付言すれば、パトスは人生や芸術の哀感を意味するペーソスの語源でもあります。