双日が総合商社としては初めて、営業部を越える異動を義務化した。それは業界に根づいた旧弊との決別を意味する。
普通の企業であれば、営業部間の異動など当たり前と映るだろうが、「背番号制」と呼ばれる独特の慣習が定着している総合商社は、部門間の縦割り意識が非常に強い。「鉄」や「食料」など、最初に配属された部門がその社員の「原籍」として付いて回るのだ。
社員の人事権も各部門が握っており、営業部の人材育成の方針でキャリアパスが決まってきた。あらゆる事業を手がけ、ビジネススタイルがまったく異なる各分野での専門知識が必須となる総合商社特有のシステムといえる。
この慣習は確かに特定分野に精通した「業界通」を育てることはできる。一方で、優秀な人材が部内に囲われて滞留する“タコツボ化”を批判する声も根強い。商社が事業投資会社へと変貌していく過程で、組織全体を見渡せる経営者の不足といった弊害も出ていた。
そのため、業界内では人材戦略を見直す動きが活発化。昨年には、三井物産が100人規模の営業本部間異動を実施する「人材ポートフォリオ戦略」を導入したばかりだ。ただ各社とも異動の人数が限定されているうえ、「各営業部が人材を出し惜しみして、エース級が異動するケースは稀」(大手商社中堅社員)というのが実情だった。
双日はさらに一歩踏み込んだ。管理職への登用条件として、「最低でも3種類以上の異なる営業部で職務経験を積むこと」を柱とするジョブ・ローテーション制度を10月にスタートさせたのだ。海外勤務、国内出向、研修生派遣も異なる職務経験に含まれる。財務、人事などのコーポレート部門と営業部との異動を軸に据える考えだ。
双日では全体の1~2割の社員の異動が滞っていたが、各部門が担っていた社員の人材ローテーションについて、人事総務部が関与を強化して、指導・調整役となる。
営業部側からは反発もあったが、2012年度の登用から適用されることになる。
人事総務部は「課長級未満の全社員に営業部間の異動を強制することで、人材のタコツボ化を防いでいく」と説明する。
商社業界でネガティブにとらえられてきた他部門への異動は、双日内部で新たな化学反応を起こしそうだ。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 山口圭介)