「すごさ」に気づけば才能が花開く

──ここまでは、「絵を描く」ことを例としてお話しいただきましたが、それ以外で、小説を書いたり作曲をしたり、または、建築物を作ったり、演技をするのでも、左利きは才能を発揮しやすいのでしょうか。

加藤:もちろんです。アウトプットのカタチは絵に限りません。

 左利きは、そもそも大勢の人とは異なる視点を持っています。だから、人とは違う個性を生み出しやすい。ただ、言語化しないと、左利きが持つ独自の感性に自分で気づかない。

 言葉でイメージを表してみたら、そのカタチが「絵」になるか、「音楽」になるか、または「小説」になるかは、人によって違うでしょう。自分が言語化しやすいものを突き詰めていけば、才能が目覚めて大きく伸びる可能性が高いです。

 自分の「すごさ」に自信を持って、一つでも二つでもできることに集中して取り組むことで、より脳も働きやすくなり、左利きは力を発揮できます。

──ちなみに、「小説を書く」のは、言葉を使うので、右利きが得意な気がしますが、違うのでしょうか。

加藤:感情を移入しやすい、よくできたストーリーは、読み進めるうちに情景が目に浮かんできます。

 左利きがイメージに言葉を結びつけていくと、そうしたリズムのある文章を書くことができます。

 リズムのある文章は、テンポよく読み進めることができ、内容もスッと頭に入ってくるものです。そうして、左利きは、多くの人を惹きつける文章を書くことができるのです。

左利きはオリジナリティを突き詰めよう!

──自分が言語化しやすいものを突き詰めるときのやり方についてうかがいます。自分の内側だけを見ていたほうがいいのか、それともある程度は、まわりの意見や定型化されたマニュアルなどを参照しながら探求したほうがいいのか、どちらでしょうか。

加藤自分の感覚を言葉で人に伝えても、また、人から言葉で意見を聞いても、そもそも脳の使い方が違う大多数の右利きとは、感覚がズレることがあります。左利きは、人の意見に左右されず、自分の頭にあるイメージをとことん追求したほうがいいでしょう。

 また、左利きはマニュアル通りに何かをやろうとすると、だんだん苦痛になってきます。左利きは、常に、状況に応じて最適な方法を工夫することがあたりまえとなっているからです。そうなったらマニュアルから離れる時期だと考えて、独自の考えを突き詰めましょう。

 ただ、マニュアルはまったく役に立たないわけではありません。マニュアルを知ることで「自分はこうだけど、マニュアルはこうなんだ」という立ち位置の違いを明確に知ることができるからです。

 左利きの場合、「自分はこう」というのが明らかになった瞬間が、大きく成長するきっかけとなることがよくあります。

──右利きとは、成長するステップや期間が違うのでしょうか。

加藤:右利きの場合、時間の積み重ねが非常に大切です。勉強にしても、コツコツと継続することで、少しずつ身になっていきます。つまり、ゆるやかに上昇する成長カーブを描きます。なぜなら、右利きが主に使っている左脳は、論理的、分析的な思考をする「直列思考」が得意だからです。また、記憶も時系列に並ぶため、時間を積み重ねることで、情報が整理されながら増えていきます。

 一方で左利きが主に刺激している右脳は、たくさんの情報が同時に脳内に浮かんでいる「並列思考」の脳です。浮かんでいる情報を、自在に組み合わせることで、柔軟な発想が生まれます。

 そのため、プカプカ浮かぶ情報のどれかが、ほかの何かと結びついたときなどにグッと前進します。それまではもしかしたら、まわりから見たら、停滞しているように見えるかもしれない。

 でも、なかなか伸びない期間のあとに大きな成長を成し遂げられるのが、左利きです。

 この左利きの傾向は、芸術だけに限りません。たとえば、左利きのお子さんが、右利きの子どもと同じようなペースで上達しないからといって、あせらないでほしい。

 本人がじっくりと、自分なりに極めていくのを見守ってあげることで、大きく伸びる時期がやってきます。

左利きは「芸術的な才能」がある? 脳内科医が解説!『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』[著者]加藤俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com