世界のエリートは、考えることを放棄しない<br />『なぜ、日本では本物のエリートが育たないのか?』刊行記念特別対談<br />【河合江理子×福原正大】(前編)福原正大(ふくはら・まさひろ)
[株式会社IGS代表取締役]
慶應義塾大学卒業後、1992年に東京銀行に入行。INSEADにてMBAを取得。「グランゼコールHEC」で国際金融の修士号を最優秀で取得。筑波大学博士号(経営学)取得。2000年、世界最大の資産運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズに転職。35歳にして最年少マネージングデイレクター、その後、日本法人取締役に就任し、アイビーリーグやインド工科大学などの卒業生とともに経営に関与。ウォートンやIMDなど世界のトップ大学院にて多くのエグゼクティブ研修を受ける。2010年、未来のグローバルリーダーを育成する小中高生向けのスクールIGS(Institution for a Global Society)を設立。2011年、日米リーダーシッププログラム日本側デリゲートに選出。
(写真撮影:宇佐見利明)

福原 まさに多様性に満ちた空間ですね。英語でプレゼンテーションをするような授業もされているとか?

河合 はい。一人一人が英語でプレゼンテーションをした後に、互いの内容について質問しあったり、改善点をアドバイスしたりする時間も設けています。

福原 それはいいですね!

河合 意見を言ったり、言われたりすることを繰り返すうちに、自分の意見を表明することに対する恐れや抵抗感が少しずつなくなっていきます。福原さんがおっしゃっているように、まさに“答えは一つではない”ということに気づいていくのです。誰かが合っていて、誰かが間違っている…そんな分かりやすいことではなくて、その人なりの考え方や正しさがあっていいということを体感を通じて学んでいきます。

福原 答えは一つではなくて、対話を通して新しい価値を創造していくところに意味があるんですよね。これも著書の中で述べましたが、グローバル化する世の中で、多様なバックグラウンドを持つ人々が協働していく上では、対話力が欠かせません。このスキルがなければ、お互いに理解が深まりませんし、力を合わせて課題を解決することも難しくなってしまいます。

一人一人の意見は違って当然

河合 日本人の学生は、“あなたの意見は違うんじゃないですか”と相手からコメントされることを極度に恐れています。一人一人の意見は違って当然で、そこがまさにスタートライン。そこから対話を重ねていくことで、お互いの人間関係も深みを増していくのですが…。

福原 INSEADでも、食事の席でディスカッションしているうちに、ヒートアップしてしまってずいぶんやり合ったものですが、あれがいいんですよね。今、日本の学生たちと話していると、学校生活の中に議論がないことで窮屈さを感じている子たちがいるんですよ。“付き合いが表面的で、自分の意見を押し殺さないといけない”と。

河合 フラットに互いの意見をぶつけ合えない土壌は、教育現場に限らず、日本企業の中でも一緒ですね。上司に対して率直な意見を口にしない雰囲気は、多くの日本企業に共通のものなのではないでしょうか。私は日本企業に勤めていた際に、専務にも平気で話しかけてしまうものだから、周囲からずいぶんと驚かれました(笑)。

福原 外資系企業だと、たとえ相手がCEOであったとしても、意見に対しては極めて対等な人間関係が存在するんですよね。