「とても丁寧にきめ細やかに作られているところが日本らしい」
佐々木 一つひとつのモノには魂がある、というのは日本ではずっと昔から考えられていたことでしたよね。それが世界に出ていったとき、新しい概念になったんでしょうか。
『伝え方が9割』も、相手のことを想像して伝えましょう、というところが一番伝えたくて、それがコアになっている本です。これも日本には昔から「相手のことを(おもんばか)慮る文化」があって、それが海外に出ていったとき、「そういう方法もあるんだ」と思われたのかな、と感じているんです。
もともと日本にあって、先祖の人たちから大切だと脈々と受け継いできたものを世界に持っていく。そうすることによって世界に喜ばれ、世界の役に立てるというのは、すごく嬉しいことですよね。
こんまり 海外でこんなに受け入れてもらえるんだという事実を知るまでは、私はまったく海外志向はなかったんです。「日本の片づけを終わらせる」というのが目指してきたところだったので、少しずつ海外のことを経験していくことになりました。
でも、日本の価値観だったり、独自の考え方、きめ細やかさというものは、やはり日本独自のものだなと感じます。言葉の伝え方も、そうですよね。その繊細さって、日本人が持つ貴重な価値なんだと思います。しかも、本人たちは気づいていないという。海外の方から見ると、想像もつかないくらいのきめ細やかさが存在していますよね、日本って。
佐々木 僕はコピーライターですから、言葉についてはとても丁寧に扱ってきましたけど、日本の読者から「読みやすいです」とは言われますが、「きめ細ですね」と言われたことはないんです。
でも、中国をはじめ海外の方からは、「とても丁寧にきめ細やかに作られているところが日本らしい」と言われ、とても新鮮な気持ちになりました。
こんまり これが映像になると、私がよくフォーカスされるのが、片づける前に家に挨拶することなんです。その場面を強調したがる作り手はいますよね。片づけの番組はたくさんありますが、他の人たちはまずしませんから。
テレビ用のパフォーマンスではないか、と言われたりもしますが、私は本を出す前からずっとやっていたことだったんです。そうしたちょっとした儀式も、神秘性につながるんだと思います。自分たちが理解できない神秘性がアメリカの方の興味につながっている。
佐々木 今は、アメリカに住まわれているんですよね。
こんまり アメリカの仕事が増えてしまって、出張に行くのも限界になりまして。子どもがいますから、預けていかなければいけなくて、仕事と家族のバランスを考えると家族全員で行ったほうがいいのではないか、と。
佐々木 そして新刊『おしゃべりな部屋』が話題になっています。
こんまり これは、川村元気さんとのご縁でできあがったストーリーなんです。映像作品を作るためにロサンゼルスにいらっしゃっているときに、ご紹介をいただいて。何か一緒に仕事ができたら楽しいね、ということになったんですが、ちょうどすぐ後に読売新聞さんの連載の企画を持ってきてくださって。
コロナが始まるタイミングで、人々の生活が変わるぞ、という予感がする時期だったので、家の中で完結する物語を作ろうということになって、「片づけ」をテーマにしました。
佐々木 7つの部屋のストーリーに分かれていて、それぞれ一つひとつに個性的な人物が出てきて。読んでいると、「あ、これは自分に近いな」という人が必ず一人なり二人なりが出てくる本ですよね。
なので、読んでいると、自分の部屋にこんまりさんが来てくれて、指導をしてもらっているかのように読めました。あと、『人生がときめく片づけの魔法』シリーズも全部読んでいますが、改めて最初の本を頭から読んだような、そういう感覚がありました。
こんまり 嬉しいです。そうなんです。実は1冊目が出てからもう12年になるんです。読んだことがあるし、メソッドは知っているけれど、片づけが終わっていないという方がいらっしゃると思っていて。
そういう方に向けて、よりスムーズに読んでいただけるような本にしたかったんです。物語としても楽しくてサクサク読めて、かつ読めば絶対に片づけしたくなる。
実際、そんなふうにモチベーションが上がって、「片づけを今回は絶対に終わらせるぞ」と思っていただける仕掛けがこの本にはあります。やっぱり物語の力は大きいです。それぞれのキャラクターの人生が実際に動いていくという様子を、本当に映像作品を観ているかのように吸収できますので。なので、読み終わったら、片づけがしたくなるんです(笑)。
佐々木 今後は、どんな展望をお持ちですか。
こんまり 「日本の片づけを終わらせたい」と思っていたら、今は「世界の片づけを終わらせたい」になってしまいました。40カ国以上で本が出て、190カ国の人がネットフリックスの番組を観てくださって、今この瞬間も片づけをしてくださっている。
一方で私自身が片づけコンサルタントとして活動する時間は限られていますから、コンサルタントの方を今、育てていて、これが60カ国で800名を超えるまでになっています。今後も、この方たちをどんどん増やしていきたいです。
佐々木 僕の本もいろんな国で翻訳されているんですが、まだ英訳はされていないんです。僕の大きな夢としては、英語版を作ること。その意味でも、アメリカで大きく成功されているこんまりさんとお会いできたことは、とても嬉しいことでした。ありがとうございました。
こんまり こちらこそ、ありがとうございました。
(了)
コピーライター/作詞家/上智大学非常勤講師
新入社員時代、もともと伝えることが得意でなかったにもかかわらず、コピーライターとして配属され苦しむ。連日、書いても書いても全てボツ。当時つけられたあだ名は「最もエコでないコピーライター」。ストレスにより1日3個プリンを食べる日々をすごし、激太りする。それでもプリンをやめられなかったのは、世の中で唯一、じぶんに甘かったのはプリンだったから。あるとき、伝え方には技術があることを発見。そこから伝え方だけでなく、人生ががらりと変わる。本書はその体験と、発見した技術を赤裸裸に綴ったもの。本業の広告制作では、カンヌ国際広告祭でゴールド賞を含む3年連続受賞、など国内外55のアワードに入選入賞。企業講演、学校のボランティア講演、あわせて年間70回以上。郷ひろみ・Chemistryなどの作詞家として、アルバム・オリコン1位を2度獲得。「世界一受けたい授業」「助けて!きわめびと」などテレビ出演多数。株式会社ウゴカス代表取締役。伝えベタだった自分を変えた「伝え方の技術」をシェアすることで、「日本人のコミュニケーション能力のベースアップ」を志す。
佐々木圭一公式サイト:www.ugokasu.co.jp
Twitter:@keiichisasaki