新年度になってから約2か月が経ち、「仕事になかなか慣れない」「周りの人と打ち解けて話せない」など新天地での様々な悩みが出てくる頃だろう。そういった仕事にまつわる悩みの解決法を網羅的に解説しているのが、プロデューサー・佐久間宣行さんの初のビジネス書『佐久間宣行のずるい仕事術』だ。
発売後1週間足らずで重版が決まり、早くも10万部を突破した本書には、SNSで「働く全ての人に読んでほしい」「人生の教科書にします」と絶賛コメントが多数寄せられている。
そこで今回は、佐久間さんとハライチ・岩井勇気さんをお招きし、自分に合う仕事の見つけ方や面白い企画の考え方を語っていただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の対談の模様を全2回のダイジェストでお届けする。(構成/根本隼)

「自分に合っている仕事、合っていない仕事」を見極めるベストな方法とは?

本音で話す人は信頼される

佐久間宣行(以下、佐久間) 岩井くんと初めて一緒に仕事したのは「ゴッドタン」の時だったかな?

岩井勇気(以下、岩井) そうだったと思います。

佐久間 当時からずっとそうだけど、岩井くんはいつもうわべを抜きにして本気でトークしてくれるから、制作側としては番組がすごく作りやすい。芸人って、思ってもないことを言っちゃう人と、本音をきちんと語れる人だったら、後者の方が長く売れるのは間違いないよね。

岩井 確かに、その場しのぎの一言ばかり言う人は、番組からどんどん消えていきますね。

佐久間 気持ちを込めて真剣にしゃべる人には好感が持てるからね。制作サイドにも視聴者にもそれは伝わる。

岩井 僕も、佐久間さんとは一緒に仕事しやすいです。企画がとにかく魅力的ですし、収録を振り返って「面白いこと言えなかったな」と個人的に思っても、オンエアを見るとすごく面白くなってるので驚きますよ。

佐久間 へえ、岩井くんはそう感じてたんだ。

岩井 そういう時は、編集の力を実感しますね。でも、編集に頼ってばかりでは芸人としての存在価値がなくなってしまうので、「企画を超えるような結果を出さなきゃ」といつも自分に言い聞かせてます。

仕事相手と接する時に心がけているたった1つのこと

岩井 佐久間さんは若手芸人と接する機会が多いと思うんですけど、若い世代との「接し方のコツ」ってありますか?

佐久間 「俺自身が企画をものすごく面白がってる」ってことが伝わるような企画説明を心がけてるかな。

岩井 おー、なるほど。

佐久間 現実的なことを言うと、彼らとは世代が違うし、あくまで仕事相手であって親友ではないから、価値観が100%一致するとは思ってない。だからこそ、お互いに気持ちよく仕事するためには、「この企画は絶対面白いから一緒にやりたい」っていう想いをできるだけ丁寧かつ率直に伝えるのが必要不可欠だと思う。

岩井 めちゃくちゃリアリストですね。実際、芸人視点で考えても、企画に対する熱意をしっかりと語ってくれるのは助かります。

 逆に、企画した本人とは別の人が企画説明をする時、その人がコンテンツに面白味を感じてないケースがたまにあります。そういう人は、企画に自信がないから不安そうに説明するので、出演する側も「大丈夫かな?」と心もとなく感じてしまいますね。

佐久間 それわかる。よくわかってない担当ディレクターじゃなくて、プロデューサーとか総合演出が説明しなきゃダメだよね。じゃないと、説得力のあることは言えない。

競争の激しい世界で生き残るコツとは?

佐久間 競争が激しいお笑いの世界で、ハライチは「システム漫才」っていう路線を選んだわけだけど、これは生き残るための戦略だったの?

岩井 そうですね。最初は僕らも、2丁拳銃さんのネタを書き起こして研究したりしながら、普通の漫才をやってました。でも、M-1の決勝で2丁拳銃さんのネタの点数がふるわなかったのを見て、「自分たちが王道の漫才を頑張っても未来がない」と感じてやめようと決意しましたね。

佐久間 若手でそこまで感じとるのはすごいな。でも、言いたいことはよくわかる。オーソドックスな漫才を究めるには膨大な時間がかかるもんね。

岩井 時間がかかるうえに、ライバルが多い分だけ競争も激しいので、その中をのし上がっていくのは労力に見合わない気がしました。

 かといって、コントの道に進む選択肢もありませんでした。コントにはルールが存在しないので、コントで何をやっても目新しさを出しづらいんですよ。

佐久間 なるほど。ルールがない自由なジャンルだからこそ、一風変わったことをやったつもりでも、他も奇抜だから目立たないんだ。

岩井 そうなんです。でも漫才には、カッチリとした枠組みがあります。俺はそれをあえて逆手にとって、むしろその枠のギリギリ内側でひねりを加えることで、他の漫才とは違う「自分たちらしさ」が出せるだろうと思ったんです。

佐久間 すごいね、20代前半にしっかり生存戦略を立てるっていう、今日のセミナーのテーマにぴったりの仕事術だ(笑)。コントはルールが自由だから、むしろ目新しく見えないっていうのはすごく納得。確かに、キングオブコントのネタは毎回面白いけど、革新性を感じることはよっぽどじゃないとないもんね。

岩井 そうなんです。でもM-1は、何年かに1度は必ず革新的なネタが出てくるじゃないですか。

佐久間 言われてみればその通りだ。ミルクボーイやカミナリ、もちろんハライチもそう。見た瞬間、「これはすごい」って感じたなあ。

岩井 もちろん、決められたルールは逸脱しちゃいけないと思います。でも、その枠内でどれだけ外側を攻められるかがポイントですね。