新年度になってから約2か月が経ち、「仕事になかなか慣れない」「周りの人と打ち解けて話せない」など新天地での様々な悩みが出てくる頃だろう。そういった仕事にまつわる悩みの解決法を網羅的に解説しているのが、プロデューサー・佐久間宣行さんの初のビジネス書『佐久間宣行のずるい仕事術』だ。
発売後1週間足らずで重版が決まり、早くも10万部を突破した本書には、SNSで「働く全ての人に読んでほしい」「人生の教科書にします」と絶賛コメントが多数寄せられている。
そこで今回は、佐久間さんとハライチ・岩井勇気さんをお招きし、自分に合う仕事の見つけ方や面白い企画の考え方を語っていただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の対談の模様を全2回のダイジェストでお届けする。(構成/根本隼)
「勝てるポイント」を意識すると戦略が明確になる
Q3. 新たな企画やネタを考える時、どうやって構築していきますか?お2人ならではの「ゼロからイチ」にする方法論があれば教えてください。
岩井勇気(以下、岩井) 「これがとにかく面白い」と確信できるメインのボケをゴールに設定してから、「そこに到達するまでにどんなボケが必要か」を逆算して組み立てていきますね。
それとは別のパターンもあります。番組内の芸人どうしのやりとりなどで面白いくだりを見つけたら、その面白さの構造を分析して、仕組みが分かったらそれを漫才に流用して落とし込むやり方です。俺の場合は、これでネタを1本作れますね。
佐久間宣行(以下、佐久間) なるほどね。かなり緻密にやってるんだ。
岩井 あとは、「ボケの一貫性」という点もネタ作りの際に意識してます。「こういうボケをするネタなんだ」と見る側に印象づけられれば、いろんな人がネタをやった後でも、そのボケが頭に残るんですよ。
ただ単にいろんなボケを詰め合わせたネタも確かに面白いですけど、そういうネタは最終的に誰の記憶にも残らないケースがよくありますからね。
佐久間 ネタでも企画でも、「勝てるポイント」が明確じゃないと焦点がぼやけるんだね。
岩井 「勝てるポイント」を定めるのはすごく重要な気がします。もしかしたら、誰も気づいていない隙間を見つけて開拓して、それを武器にする手法が俺に向いてるのかもしれないです。
佐久間 絶対そうだよ、その点は頭抜けてると思う。
岩井 ニッチな分野を攻めるのは邪道だとか言う人もいるかもしれないですけど、俺はそうは思わないです。そんな人には「じゃあ、あなたはこれを発想してチャレンジする勇気がありましたか?」って聞きたいですね。
人を気持ちよく動かす方法とは?
Q4. 同業者でも同業者以外でも、仕事の進め方で影響を受けた人はいますか?
岩井 おぎやはぎの矢作さんですね。
佐久間 わかる。矢作さんは、人を気持ちよく動かす達人だよね。
岩井 人を動かしたい時に、「○○してください。なぜなら●●だからです」と理論的に説明してもうまくいかないじゃないですか。正論をズバズバ言うのは番組だと面白さにつながるんですけど、日常生活で正論ばかり吐いても相手を納得させられないので。
個人的には、相手が気持ちよく動けるように導くためだったら、頭を下げたりして何でもやるのが合理的だと考えていて、その点で矢作さんはまさに合理的ですね。いつも矢作さんのイメージ通りに人が動くので、本当にすごいなと思います。
佐久間 だいぶ前に、俺はおぎやはぎと劇団ひとりをすごく面白いと思って、彼らを絶対に逃さないように囲ったつもりだったんだけど、この本の中の放送作家・オークラさんのコラムを読んだら真相は逆だった。
矢作さんと一緒に番組をやってた時に、俺の編集を見た矢作さんが「佐久間さんすごいね。彼を逃すな」ってオークラさんに言ったんだってさ。
岩井 え、そうなんですか!初耳です。
佐久間 だから、俺も矢作さんにコントロールされてた(笑)。
岩井 なるほど。むしろ佐久間さんが囲われてたんですね(笑)。
佐久間 そう。俺はテレビ東京の社員として、この人たちと一緒に成長したいっていう想いで囲んだけど、矢作さんはさらにその外側から俺を囲ってたっていうね。
教養や趣味を「一生使える武器」として磨くべき
Q5. 春から大学2年になります。将来は芸人や作家になるか、もしくは制作会社に就職したいと考えているのですが、今のうちにやっておくべきことは何でしょうか?
佐久間 時間があるうちにやっておくべきなのは「教養を学ぶ」ことかな。俺の場合、大学時代にSFを中心に本をたくさん読んでたのがいまだに武器になってるからね。
あとは、学生の間に松尾スズキさんや三谷幸喜さんを始めとしたたくさんのお芝居を見てたんだけど、その経験のおかげで過去の作品の話もできるから、色んな事務所の方から信用されたりもするし。
岩井 なるほど。やっぱり、時間がたくさんある時にしか磨けない武器ってありますよね。
佐久間 芸人の場合は売れない時期に時間があるから、その間に身につけられるけど、普通の社会人がまとまった時間を確保して何かを突き詰めるのはほぼ間違いなく無理。
だから、社会人になって以降のインプットが全然ないから、得意なことや好きなことでも学生の時に身につけた知識のままでストップしてるパターンがよくある。
こういう人が30代で音楽番組のディレクターになった時に、自分が20代前半の時に好きだった音楽を取り上げたりするのよ。だから、2000年代にフリッパーズ・ギターとかTHE BLUE HEARTSがやたら流れる時期があった(笑)。
岩井 世の中で流行ってたのはもっと前ですよね。
佐久間 そうそう。それは、学生時代にフリッパーズ・ギターを好きだった世代がようやく番組の作り手になったから。もちろん、それも1回だけならいいけど、新たな学びがないと引き出しがすぐに尽きるから、ダサい番組になっちゃう。
岩井 初めは視聴者にとっても新鮮ですけど、それが続くとすぐ飽きちゃいますね。
佐久間 だから、まとまった時間がある時に教養や趣味を磨くのはもちろん大切だけど、社会に出て忙しくなっても続けられるような習慣を作って、インプットを絶やさないことも同じくらい価値があると思う。
(本稿は、ダイヤモンド社「The Salon」主催の『佐久間宣行のずるい仕事術』刊行記念セミナーの対談ダイジェスト記事です。「The Salon」の公式Twitterはこちら)