しかし、それ以降はコロナ感染者の増加に初の緊急事態宣言の発出と、コロナ感染の急拡大状況を受けて東京のオフィス空室率は拡大の一途となり、同年8月には平均で3%、11月には4%を突破した。その後も東京のオフィス空室率は拡大を続け、1年後の2021年10月には6.47%(新築ビル14.03%/既存ビル6.39%)にまで達している。

 新規に供給されるオフィスの空室率を見る上では5%、つまり95%埋まっているかどうかが市況の好不調の目安とされている。新築マンションの初月契約率については70%が売れ行きの好不調の目安とされるように、その数値自体にさしたる根拠はないのだが、コロナ禍における2021年のオフィス空室率の推移はその目安を上回る状況であり、少なくとも好調とは到底いえない状況だった。それだけオフィス市場に対するコロナの影響は直接的だったというべきだろう。

 正確に言えば、コロナの影響というよりは、コロナによっていわゆる“働き方改革”が半強制的に推進されることとなり、テレワークが多くの企業で導入・実施されたことが影響したというべきだろう。

 テレワークも当初は毎週1日程度の試験的な導入であったものが、コロナ禍の拡大によって毎週数日になり、政府や自治体、経団連などの団体からの要請も重なって、ついには原則として在宅で勤務し必要なときだけ出社するという就業形態を導入する企業が増えた。

 特に東京はテレワークという働き方に親和性の高い規模の上場企業(就業者数が多い企業ほど導入率は高い傾向がある)、業種(情報・通信、金融・保険業などは特に親和性が高い)、およびエリア(こういった規模および業種は東京都内に本社を置いていることが圧倒的に多い)という条件がそろっており、テレワークの導入が加速度的に進んだことが、不要になったオフィスの返却、契約変更などに表れたものとみることができる。

 余談ながら、筆者が所属する不動産ポータルサイトLIFULL HOME’Sを運営するLIFULLでも、コロナ禍の拡大とともに出社とテレワークの選択制からテレワーク推奨へ、さらに原則テレワークへと出社頻度が漸減し、宣言や措置が発出されていない現状においても出社するかどうかは部署ごとにコントロールするという比較的柔軟な体制が敷かれている。ノートPC1台とネット環境さえあればどこでも仕事ができるというIT関連企業ならではの仕事のスタイルといえるだろう(この原稿も自宅で会社のノートPCに向かって打ち込んでいる)。