アタナシウスが主張した
「三位一体説」とはどんな宗教理論か?

 ニカイア公会議における「イエスは神の子」派の主要な論客は、アレクサンドリア教会の若き助祭アタナシウス(298-373)でした。

 彼の主張の要点は次のとおりです。

 「神がイエスという人間を借りて受肉したからこそ、イエスへの信仰が成立するのである。

 アリウス(250-336)が主張するように、神とイエスが異質であったら信仰は成立しない。

 だから父なる神と子なるイエスは同質なのだ。

 イエスは神の子である」

 受肉とは神の子であるイエスが、人間(すなわち肉)として生まれたことを指します。

 さらにアタナシウスは次のように主張を展開しました。

 「マリアを身ごもらせたのは、神の分身ともいうべき聖霊である。

 すなわち宇宙の創造神(主(しゅ)である神)は、人類を原罪から救うために、父なる神と子なるイエス、そしてマリアを宿した聖霊という3つの位格を創造したのである。

 したがってこの3つの位格は3つとも神である。

 イエスは母なるマリアから生まれたが、神の位格を持つ存在なのだ。

 人ではない」

 位格という宗教用語は、ラテン語ではpersonaペルソナです。

 その原義は仮面です。

 そこから発展して、人や人格の意味が生まれました。

 英語ではpersonパーソンです。

 したがって位格という表現は「知恵と意志とを備え持つ独立した主体」というニュアンスを含んでおり、シンプルに考えれば「神格」と考えていいと思います。

 アタナシウスに代表される人たちの、「父なる神と子なるイエスと聖霊、この3つの位格はすべて一体で神である」という考え方が、三位一体説(さんみいったいせつ)です。

 ニカイアの公会議では、イエスを神と考えるか、人と考えるかが激しく論争されました。