まずは社内に耳を傾け、社内課題/ニーズとリンクさせよう(Seizing)

 ESG/SDGs経営の新規・既存事業への反映を考えるうえでよく問われることとして、「事業」としてのサステナビリティがあります。日本ではどうしてもESG/SDGs経営に関わる活動がCSRの延長線上として、また収益ではなくコスト項目として捉えられがちです。

 しかし、ESG/SDGs経営に向けた活動を社内のオペレーションニーズの解決に結びつけ、継続性という観点からもサステナビリティを達成しているケースが見られます。

 たとえば、ジェットブルーではESG/SDGs経営の活動推進にあたり、まず中間管理職との対話を通した、サステナビリティに関するオペレーションニーズの把握からスタートしています。

 具体的にはジェット燃料の価格変動のヘッジという社内ニーズに対し、再生可能ジェット燃料調達の長期契約スキームを構築することで、ESG/SDGs経営の達成と、社内のオペレーションニーズ(社内のお困りごと)の解決を両立させています。

 ときに「やらされ感」が出てしまいがちなESG/SDGs経営のヒントを、社内の中間管理職との議論を通じて、現場のニーズ解決につなげるという考え方は、ESG/SDGs経営のアイデア出しの1つの突破口となり得るでしょう。

小さな成功と信頼を積み重ね、大きく展開しよう(Managing Threat/Transforming)

 もう1つ、ESG/SDGs経営を考える重要な課題として、いかに全社でESG/SDGsへの活動を「自分ごと」として展開するか、という視点があります。経営陣の号令でESG/SDGsの担当役員や担当部署が設置されたは良いものの、活動が担当部署に留まり、なかなか全社への浸透が進まないことに悩んでいる経営者や担当者も多いことでしょう。

 今回取り上げたケーススタディのなかでも、会社のミッション自体をESG/SDGs経営の考え方に合わせているテスラ(「世界の持続可能なエネルギーへの移行」がミッション)や、サステナビリティの関連部署さえも設立せず、曰く「メインストリーミング」戦略として、ESG/SDGs経営の活動を事業の中心軸に置いているBNPパリバのような事例もあります。

 しかし、重要な視点は、社内の信頼の積み重ねです。企業変革でもいえることですが、新規の活動を社内に浸透させるには、まず小さくても社内で成功事例をつくり、かつ事業現場で「お役立ち」することで、現場の負担を増やすのではなく、むしろ減らし、全社でESG/SDGs経営に向けたインセンティブを合わせていく必要があります。

 たとえば、先ほどのジェットブルーのケースでは、再生可能ジェット燃料の長期契約に進む前に、社内のヒアリングを通じて機内飲料水の使用量削減や、エンジン洗浄プロセスの効率化、ペーパーレスキャビンへの移行など、社内ニーズの解決(かつESG/SDGs経営の実践)を通じた信頼獲得活動を地道に行っています。

※本記事は『SDGs時代を勝ち抜く ESG財務戦略』より本文の一部を抜粋、再編集しています。