5月25日、JR東海の葛西敬之名誉会長が81歳で逝去した。国鉄分割民営化において、国鉄内改革グループの中心として活動し、JR東日本の元会長である松田昌士氏、JR西日本の元会長である井出正敬氏とともに「国鉄改革三人組」と呼ばれた人物だが、社長在任中から安倍晋三元首相と密接な関係を築くなど右派論客、政界のフィクサーとしても知られた。国鉄の分割民営化とは何だったのか、そして民営化の旗手であった葛西氏は何を考え、何を行ったのか、全2回で振り返る。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

国鉄改革三人組の一人として
分割民営化を推進した葛西氏

JR東海の葛西敬之氏が国鉄改革を行った真の理由、労使問題以上の大問題とはJR東海の葛西敬之氏はなぜ国鉄改革を行ったのか。労使問題より深刻な理由とは? Photo:JIJI

 国鉄時代に職員局次長を務めた葛西氏は、JR東海取締役総合企画本部長に就任し、初代社長の須田寬氏とともに東海道新幹線の刷新に尽力した。1995年に2代目代表取締役社長に就任。2004年から代表取締役会長、2014年から2020年までは代表取締役名誉会長という異例の肩書で、米国などへの新幹線のトップセールスを担当した。

 葛西氏は毀誉褒貶(きよほうへん)の多い人である。国鉄分割民営化では国鉄内の「抵抗勢力」と激しいつばぜり合いを演じながら、政治家や財界人とパイプを築き、実現にこぎ着けた。国鉄の負のイメージは刷新され、さまざまな新しいサービスが実現。JR東日本、西日本、東海、九州は完全民営化を実現し、国鉄から継承した負債を着実に返済してきた。

 一方で高規格道路の整備、人口減少の加速によりJR北海道とJR四国の経営は行き詰まり、国主導の経営再建計画が進んでいる。JR北海道では不採算路線の廃止が続いており、JR西日本も中国地方のローカル線を中心に廃線も視野に入れた協議に入ろうとしている。これらはJRという民間営利企業に委ねた結果生じた「地方の切り捨て」であるとして、国鉄分割民営化自体が誤りであったと唱える人もいる。