日本企業の中国ビジネス「3大リスクシナリオ」とは?対処法をプロが伝授Photo:PIXTA

中国(中華人民共和国)は、2021年にWTO(世界貿易機関)に加盟してから20年という節目の年を迎えた。WTO加盟以降、中国は貿易大国として成長を加速させた。日系企業も、2021年現在で3万超の拠点を中国に設置するなど、日中間の経済的関係についてはその深化が続いていた。しかし、中国の事業リスク環境は近年、不確実性が高まりつつある。特に、中国を巡る地政学的リスクの顕在化は日本社会や日系企業の活動にさまざまな影響を及ぼしている。地政学的観点から、日系企業の中国リスクを解説しよう。(コントロール・リスクス・グループ、コンサルタント 菊池朋之)

日系企業に影響も
なぜ米中関係はここまで悪化した?

 2018~19年にかけて激化した米中間の貿易対立では、相互の関税引き上げや輸出入制度の変更などが行われた。米中両国で事業活動をしている日系企業にも、部品や原料の調達の不安定化、既存製品に対する貿易規制など、多方面で影響が生じた。

 米中間の貿易対立は外交的妥結によって、既に一定の沈静化をしているものの、両国は潜在的な対立関係にあるため、米中間対立によって生じる問題が今後も発生し、日系企業や日本社会に影響が生じることを想定しなければならない。そして、日本の貿易相手国として輸出入額が1位の中国と2位の米国の政治的、経済的、そして軍事的対立が激化すれば、両国での事業活動を行っている日系企業だけでなく、基本的に全ての日系企業の活動にとっても障害になることは明白だ。

 現在、米中両国は先端技術等の戦略的に重要な製品を他国、特に対立関係にある国からの依存脱却を進める、いわゆる「部分的デカップリング」を双方が進めている。この政策方針に沿って、両国は重要品目の内製化や同盟関係の再強化を進めている。米中間の対立は根本的には、民主主義と権威主義の間にある普遍的な価値基準を巡る対立があり、アジア太平洋を中心としたグローバルな影響力の獲得競争という構造的対立であるといえる。

 こうした、米中両国という世界経済および日本経済とってのプレゼンスが大きい国家間の対立は、日系企業の事業活動や日本社会にも大きな影響を及ぼしている。日系企業としては米中対立を単発のリスク要因というよりも、10年単位のスパンで今後もさまざまな影響が現出することを想定しなければならない。