つまり、米中対立に起因する各リスク事象に対して場当たり的に対応するのではなく、中長期の経営戦略や企業としてのあり方を問われる戦略的リスクとして、自組織にとってのリスクシナリオや対応策を検討していかなくてはならない。こうした、現在の米中対立に至るまでに、どのようなプロセスがあったのだろうか。

 09年に就任したオバマ大統領は、対テロ戦争以降の米国の軍事的プレゼンスの中東地域への偏重の調整を進め、アジア太平洋地域を重視する「リバランス」政策を打ち出した。1980年代から、軍事的な海洋進出と近海における勢力圏の確保戦略を強化していた中国は、2000年代に急成長を遂げた経済力を背景に、アジア太平洋地域における軍事的活動や一方的な権益主張を強硬化させた。この結果、アジア太平洋地域における米中間の対立が深まった。

 オバマ政権は15年に、中国が一方的な現状変更を進める南シナ海において、「航行の自由」作戦を開始するとともに、冷戦後の対中政策の基本原則である「関与政策」が見直された。結果として、米国政府にとっての両国間関係は対立的な競争相手として再定義された。

 トランプ大統領は政権発足当初、中国との前向きな関係改善を進めたものの、米国内で対中貿易赤字や中国に対する脅威認識が高まったことを受け、中国非難と関税引き上げなどによる対中「対抗措置」を強化した。18年から特に激化した米中間の貿易戦争では、中国との経済的関係を深めていた日系企業にも、調達コストの増加やサプライチェーンの不安定化という重大なリスク要因となった。

 バイデン大統領はトランプ政権の政策を修正しつつも、先端技術を中心とした部分的デカップリングを進めており、対中「競争戦略」を基本的には継続している。

地政学的観点で分析
日系企業の「中国リスク」とは

 こうした米中関係の悪化は、米国の同盟国である日本にも重要な影響を及ぼしていることは言うまでもない。その一つが、先日推進法が成立した経済安全保障政策の強化だ。経済安全保障推進法では、各国にとって重要な戦略品目である半導体等のサプライチェーンの強化や内製化、基幹インフラのサイバー攻撃等に対する強靭(きょうじん)化や一部外国業者の排除、先端技術の研究開発の促進、一部特許の非公開化などが重点項目として掲げられている。

 日本政府は、経済安全保障関連の政策対象として中国の名指しは避けているものの、念頭にあるのは明らかに中国である。米中間の構造的対立とその長期化を念頭に置き、同盟国として米国の対中政策と軌を一にしているといえる。

 民間企業に対しては、監督省庁による対応状況のチェックや審査等の新たな措置の実施が定められており、企業としてコンプライアンスやCSRの観点からも、中国リスクを念頭に置いた経済安全保障への対応を進めていかなければならない。

 より広義な意味での日系企業にとっての地政学的観点からの中国リスクには、具体的に次の3つが挙げられる。