(1)コンプライアンス上の負担と、規制の不確実性の増大

 米国、中国、そして日本などの各国は、対立の激化に伴い、関税、通関、制裁、サプライチェーン、データや国内市場への参入要件等の各種規制を新たに導入している。民間企業は、こうした対外関係による各国の法規制の変更リスクに直面しており、これらの法規制を順守していかなければ、事業活動に対して大きな制約を受ける可能性がある。

 さらに、米中対立の長期化は、日系企業が進出している各国において、一方の国の規制を順守するともう一方の国の規制に抵触するという二律背反の規制が増加し、企業はコンプライアンス上の困難な経営判断を迫られる機会が増加することが想定される。例えば、中国が2021年に制定した「反外国制裁法」では、中国に不利な外国の制裁措置に関与した場合、取引の停止や資産の押収などが可能となっている。現在まで、反外国制裁法の違反事例は報告されていないものの、例えば米国の対中制裁を順守した行為が中国において法律違反となり何らかの罰則を科される可能性がある。

 今後、米中関係、日中関係に応じて、自社の事業活動が大きく制限されるような、規制や制度が制定される可能性もリスクシナリオとして検討して、柔軟に対応できるようなコンプライアンス・ガバナンス体制を構築しておくことが、民間企業には求められる。

(2)事業コストの増加とサプライチェーンの不安定化

 18~19年の米中間の貿易対立の激化で実施された、関税規制、輸出入規制、原産地規制の強化によって、上昇した関税額、複雑化した通関手続き、サプライヤーの変更等によるサプライチェーンの組み換えなどの形で国際貿易に必要な取引費用(トランザクション・コスト)が純増した。

 中国とオーストラリアの新型コロナウイルスの発生源に関する対立では、中国が報復措置としてオーストラリア産の農産物や石炭に対する全面的な輸入停止措置を実行した。その結果、中国国内は石炭不足による計画停電や暖房費の上昇が見られた。

 政治・外交的対立の報復・対抗措置として、経済・貿易上の手段を使用することは、各国の政策手段として広く実施されている。米中という2大経済大国の対立によって実施される規制や制裁の影響は、民間企業の事業の継続に直接影響を及ぼしかねないほどのインパクトを有している。そして、政治的な対立をきっかけとして、重要な部品や原料の供給停止や、自社製品の輸出入自体が困難になることも想定しなければならない。

(3)企業競争力の変動

 米中対立という地政学的な圧力は、上述の通り各国市場における手続きの増加、コスト増、製品供給の不安定化をもたらす。そして、各国は自国内企業にグローバルサプライチェーンの見直しを求め、重要先端技術を中心に内製化への転換を進めている。その結果、コストの価格転嫁や、企業ブランドの国籍に対する拒否感から、企業の市場における競争力が低下する可能性がある。

 例えば、米国のバイデン政権は重要製品に対する国内調達基準を引き上げる「バイ・アメリカン」政策の強化を発表しており、中国においても同様の動きが見られている。こうした傾向が強まれば、日系企業の製品の販売機会が米中という重要なマーケットで減少する可能性がある。

 他方、バイデン政権の同盟国重視の姿勢から米国やEU、英国、オーストラリアなどで中国製品の排除が進むことによって、日本企業の製品の競争力が高まるというポジティブ・リスクも存在する。地政学的リスクが高まる現在、こうした市場環境と外的要因による自社の各国市場における競争力の変化に対して、事業機会を適切に捉え、必要な事業投資の意思決定を行える組織の強化と社内文化の醸成を行うことが、日系企業にはより一層求められている。