ウクライナ侵攻で台湾問題の認識高まる
日系企業はどう対処すべき?

 米中対立以上に、より軍事的なリスクとして関心が高まっているのが、台湾を巡る問題である。特に、ロシアによるウクライナへの軍事的侵攻が実施された結果、台湾に対する中国の軍事的侵攻に対する脅威認識が高まった。

 実際に当社に対する問い合わせにおいても、ロシアのウクライナ侵攻が開始された今年の春以降、中台間の軍事的リスクに関する質問が増加している。中台間の政治的・歴史的背景に関しては、本稿では割愛するが、中台問題は今に始まったものではなく、ロシアのウクライナ侵攻により日本周辺の地政学的リスクとして、再提起されたものであるといえるだろう。

 台湾を巡る問題は、戦後の日本にとって軍事的リスクを含む重大な地政学的リスクであり続けた。しかし、ウクライナと台湾の安全保障環境や地政学的環境は大きく異なっており、ロシアのウクライナ侵攻と中国の台湾侵攻の蓋然(がいぜん)性を同一視することは適切ではない。ウクライナはNATOに加盟しておらず、米国との2国間の安全保障条約も結んでいないため軍事同盟関係を有していなかった。

 米台関係は米国の台湾関係法に基づき、非公式ではあるが実質的な同盟関係にある。また、長い陸上国境線を接し陸上の大規模侵攻が可能なロシア・ウクライナ間と、台湾海峡を越えた上陸作戦が必要な中台間では軍事的侵攻の難易度に大きな隔たりがある。

 従って、筆者は中台間の軍事衝突や全面的な軍事侵攻の可能性は、短期的に蓋然性の高いリスクであるとは評価していない。政策的にも中台両政府は今のところ、いわゆる「一つの中国原則」の政策方針は崩しておらず、中国の習近平総書記は2019年の談話において、台湾問題解決に向けた習近平5項目(以下)を掲げている。

(1)平和統一の実現
(2)「一国二制度」の適用
(3)「一つの中国」堅持
(4)中台経済の融合
(5)同胞・統一意識の増進

 なお、これらの達成のために「中国人は中国人を攻撃しない」が「武力使用の放棄は約束しない」とも述べている。

 つまり、日系企業が台湾問題をリスクとして扱う際に優先すべきなのは、軍事的な侵攻や衝突というシナリオへの備えではなく、中台間関係の政治・外交的側面から生じるリスクである。長期的なリスクとして軍事衝突の可能性を考慮しつつも、中台間の今後の政策動向や関係変化のシナリオを米中間、日中間への影響も踏まえ検討し、自社の事業への影響を分析することが求められる。具体的には中台間貿易の縮小、米中対立の激化などにより、制裁の強化や国際貿易環境の悪化などが挙げられる。

 今後の中台関係のポイントとして、各国の国内政治環境を注視することも重要である。例えば、22年秋の党大会で、習総書記は慣例を破って3期目入りする可能性が高い。そこで習総書記が実質的に終身指導者となり、正統性確保のために台湾に対するより強硬な政策方針をとるのか。24年に政権交代が予定されている台湾の次期総統の政策方針に、「一つの中国」原則を否定する台湾の独立方針が含まれるのか。米国による、台湾に対する安全保障の提供に関する政策変更はあり得るのか。

 米中対立や台湾問題に対しては、政治的・地政学的リスクに対する高い感度を維持しつつ、企業としてのグローバル規模でのリスク・マネジメント、危機管理体制の向上が日系企業には何よりも求められている。