決算書100本ノック2022夏#5Photo:SOPA Images/gettyimages

パナソニックホールディングスが虎の子のIT企業を上場させる。巨費を投じ完全子会社化した企業の一部株式を手放すのはなぜか。『決算書100本ノック!2022夏』の#5では、同社が上場による資金調達を選んだ理由を解き明かす。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

「週刊ダイヤモンド」2022年6月25日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

パナソニックと日立の間で
「重要IT子会社」の扱いに違い

 パナソニックホールディングスはかつて「松下銀行」と称されるほど資金が潤沢だった。だが、プラズマディスプレーへの投資や1兆円の枠を設けて行った戦略投資などの支出で、金持ち企業ではなくなった。ネット資金は2007年3月期の1.5兆円から22年3月期のマイナス6490億円へと急減している。

 名門復活への起死回生の策が8560億円を投じた米IT企業ブルーヨンダー(BY)の買収だ。BYはデジタル化のソリューション事業で成長を図るパナソニックの中核で2022年3月期の売上高1500億円、20年の売上高に対するEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)比率24%を誇る。

 ところが、である。パナソニックはBYを含む新会社を上場すると発表して資本市場を驚かせた。

 パナソニックのBY獲得と同時期に1兆円で米IT企業グローバルロジック(GL)を買収した日立製作所は、GLを完全子会社のまま抱え込んでいる。

 GLは、22年1~3月期の売上高が前年同期比41%増、調整後営業利益率22%というお宝企業で、その利益を少数株主にわざわざ分配することはない。また、GLの経営資源をフルに日立のために活用し、既存事業との間にシナジーを生むことに集中させる狙いもある。逆に言えば、GLを上場すると少数株主との利益相反が生じて意思決定のスピードが落ちかねない。

 パナソニックと日立でIT子会社の扱いの違いが生まれるのはなぜなのか。次ページでは、パナソニックがBYを含む新会社を上場する理由と、パナソニックがそれに続いて上場を検討する有望事業を明らかにする。