壁を超えたら人生で一番幸せな20年が待っていると説く『80歳の壁』が話題になっている今、ぜひ参考にしたいのが、元会社員で『島耕作』シリーズや『黄昏流星群』など数々のヒット作で悲喜こもごもの人生模様を描いてきた漫画家・弘兼憲史氏の著書『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)だ。弘兼氏のさまざまな経験・知見をもとに、死ぬまで上機嫌に人生を謳歌するコツを説いている。
現役世代も、いずれ訪れる70代、80代を見据えて生きることは有益だ。コロナ禍で「いつ死んでもおかしくない」という状況を目の当たりにして、どのように「今を生きる」かは、世代を問わず、誰にとっても大事な課題なのだ。人生には悩みもあれば、不満もあるが、それでも人生を楽しむには“考え方のコツ”が要る。本書には、そのヒントが満載だ。
※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』より一部を抜粋・編集したものです。

【漫画家・弘兼憲史が教える】<br />友だちが少なくても<br />定年後を満喫するためのたった1つの道作:弘兼憲史 「その日まで、いつもニコニコ、従わず」

一人でオタク道を進め

趣味をとことんまで突き詰めた結果、一人で趣味の世界に没頭する生き方も悪くありません。僕自身、仕事ではありますが、漫画という趣味の世界に没頭して生きています。

リタイア世代は、好きな趣味にどれだけ時間を注ぐのも自由ですから、誰からも文句をいわれず、一日中好きな世界に浸ることができます。どんな分野であっても、「オタク」を自称するほどのめり込めるものがあれば、その人は幸せだといえます。

オタクという言葉は、もともと漫画やアニメなどのサブカルチャーにハマっている人を称していましたが、今では、自分が好きな趣味をとことん追究している人全般を指すようになりました。

自分が好きなことに没頭する

「あいつはつき合いが悪い」なんていわれても、構うことなく自分が好きなことに没頭する道です。もちろん、趣味の仲間を作ってもいいのですが、オタクは一人で追究するのがふさわしい気がします。

僕自身、オタクの一人であることは間違いありません。10歳のときに手塚治虫さんの『地球大戦』という作品に大きな衝撃を受け、夏休み中、どこにも遊びに行かず、ひたすら模写したのを覚えています。

当時は「オタク」という言葉がなかっただけで、やっていることは漫画オタクそのものでした。それまで絵画の先生から水彩や油絵を習っていた僕は、漫画の世界に目覚めてからというもの、しだいに漫画風の絵を描くようになりました。

70代にして日々熱中できる

当時は、まだ漫画家になろうとまでは考えていませんでしたが、好きな漫画を探求し続けた結果、3年間のサラリーマン生活を経て、プロの漫画家としての道が拓かれました。

あの頃、漫画という生涯にわたって熱中できる対象に出会えたことに、本当に感謝しています。70代の現在も日々熱中できているのですから。

漫画の世界で成功している人は、ほとんど漫画オタクではないかと思っています。けっして絵を描くのが上手くなくても、漫画オタクには独特の熱量があります。その熱量が作品から伝わるからこそ、読者をひきつける作品が生まれているように感じるのです。

生きるパワーの源泉は?

“オタク魂”こそが生きるパワーの源なのです。アートや学問の世界を見渡しても、第一線でオタクが活躍していることに気づきます。

僕が大好きな映画の分野では、同世代のスティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスなど、“映画オタク”の少年がそのまま世界的な巨匠に上り詰めたという印象があります。

誰しも、子どもの頃に何かに熱中してワクワクした経験があるはず。70代を迎えた今、そのときの気持ちを思い出して再びチャレンジをしてみるのも、おもしろそうです。

子どもの頃を一度、ふり返ってみると

幼い頃に当たり前のように熱中していた趣味を忘れてしまっていることも意外に多いので、一度、振り返ってみてください。何をやってもOKです。ピアノの練習でもいいし、釣りでもいい。

多少経済的に余裕がある人は、子どもの頃にかなわなかった大きなプラモデルや飛行機のラジコンを作ってみるなんてどうでしょう。埼玉から東京を流れる荒川の河川敷では、中高年が大きなラジコン飛行機を持ち寄り、大空に飛ばしている光景も見られます。

友人が少なくても幸せな道

もちろんお金をかけない趣味もたくさんあります。写経をするとか、ひたすら地図を見るとか、散歩の途中に建築物を鑑賞するなど、オタク道のネタはたくさん転がっています。それをフェイスブックやツイッターなどのSNS(交流サイト)で発信してみると、見知らぬ人から思わぬ反響を得て、ネット空間での輪が広がっていくかもしれません。

オタク道を究めたら、友人が少なくても、余生は結構幸せなものになる。僕はそう確信しています。

※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。