選手同士が指摘し合えるような環境をつくりたいですし、自分たちで高め合ってほしい。選手同士が集まってミーティングを実施しているのですが、僕は毎回参加するわけではありません。学生コーチを参加させ、その内容も後からすべて聞いているわけではないんです。高校生同士の世界があっていいし、学生コーチと高校生の世界があっていい。指導者がすべて把握する必要はないと思っています。

間違えたときに皆の前で
あえて指摘することの意義

 一方で、大きく間違った方向に進みそうになった場合は、皆の前で指摘することがあります。「褒める時はみんなの前で」「叱るときは個別に」といった教育理論がありますが、私はみんなの前で指摘を入れる場合があります。

慶應義塾高校野球部が仕掛ける「自己決断」のボトムアップ式指導法

 これは叱責しているのではなく、フィードバックをしているので、皆に共有した方がいいんです。選手のある行動にミスがあって、それを1つのケーススタディとして、全選手に共有するのが指導者の役割だと思っています。

 今日の練習でもミスした選手がいたので、全員の前でその理由を聞きました。その選手は「サインがわからなかった」と回答。サインがわからないままプレーが始まってしまったんですね。では、その場合には、きっちりタイムを取るなどの選択肢があるはずです。

 何がダメなのかを理解する場になってほしいんです。指導者と選手の間に共通の物差しを作っていくことが大事ですね。

森林貴彦(もりばやし・たかひこ)/慶應義塾高校野球部監督。慶應義塾幼稚舎教諭。1973年生まれ。慶應義塾大学卒。大学では慶應義塾高校の大学生コーチを務める。卒業後、NTT勤務を経て、指導者を志し筑波大学大学院にてコーチングを学ぶ。慶應義塾幼稚舎教員をしながら、慶應義塾高校コーチ、助監督を経て、2015年8月から同校監督に就任。2018年春、9年ぶりにセンバツ出場、同年夏10年ぶりに甲子園(夏)出場を果たす。

*「森林貴彦・慶應義塾高校野球部監督に聞く(3)」に続きます。