世界的に有名な企業家や研究者を数多く輩出している米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院。同校の准教授であり、さらに東京大学のグローバルフェローとして活躍する経済学者・鎌田雄一郎氏の『16歳からのはじめてのゲーム理論』は、著者の専門である「ゲーム理論」の本質をネズミの親子のストーリーで理解できる画期的な一冊だ。
ゲーム理論は、社会で人や組織がどのような意思決定をするかを予測する理論で、ビジネスの戦略決定や政治の分析など多分野で応用される。そのエッセンスは、多くのビジネスパーソンにも役に立つものである。本書は、各紙(日経、毎日、朝日)で書評が相次ぎ、竹内薫氏(サイエンス作家)、大竹文雄氏(大阪大学教授)、神取道宏氏(東京大学教授)、松井彰彦氏(東京大学教授)から絶賛されている。その内容を人気漫画家の光用千春さんがマンガ化! 大反響WEB限定特別公開の連載第6回です(全7回、毎週日曜日更新予定)。

【マンガ】東大グローバルフェローが教える「企業の情報開示」を数理的に研究した超興味深い論文とは?
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企業の「情報開示」を分析

【解説コラム】

 今回の物語は、少々ややこしかったかもしれませんね。R君がお父さんに通知表を見せるかどうか。こうした状況については様々な論文が書かれているのですが、サンフォード・グロスマン氏とオリバー・ハート氏による、Journal of Financeに掲載された“Disclosure Laws and Takeover Bids”(訳:『開示法と公開買い付け』)という1980年の論文を挙げておけば大丈夫でしょう。

 これは、金融商品取引法は株式の公開買い付けに関わる企業にどの程度情報開示を求めるべきか、そしてそもそも情報開示を求めない場合には企業はどれくらい(自主的に)情報を開示するのか、を数理分析した論文です。

どんな情報でも開示する?

 分析によると、評点のように開示される情報に優劣がつけられる場合は(たとえば10の方が9より良い)、情報開示を強制しなくとも、ネズミたちがたどり着いたような「どんな情報でも開示する」という一見直観に反する結果が得られています。

 怪物猫の話のときのように、この結果を実際問題妥当な予測と言えるかどうかは、少し疑問が残るかもしれませんね。

 ここで注意しておきたいのは、情報を開示する側(企業や、R君)が、嘘の情報を開示することはできないということです(R君はさすがに、通知表を書き換えてお父さんに見せたりはしませんよね)。もし嘘をついても問題ないとしたらどの程度情報が伝わるのか、これはまた別問題です。

嘘をついてもいい場合

 このような「嘘をついてもいい場合」については、1982年にヴィンセント・クローフォード氏とジョエル・ソベル氏が端緒となる論文“Strategic Information Transmission”(訳:『戦略的情報伝達』)をEconometricaという学術雑誌に発表しました。

 そしてその論文をきっかけに現在でも活発に研究がなされており、私自身も関心を持って研究に取り組んでいます。この嘘をついてもいい場合は、「嘘をついてもコストがかからない」というわけで、専門用語で「チープ・トーク」と呼ばれます。

「伝言ゲーム」の意外な結論

 ちなみに手前味噌ですが、私の書いた論文“Hierarchical Cheap Talk”(訳:『階層的チープ・トーク』)(アッティラ・アンブラス氏、エドゥアルド・アゼベド氏と共著、Theoretical Economics誌に掲載)は、伝言ゲームのようにある人が次の人に話し、話を聞いた人がその次の人に話し……という状況を分析しました。

 伝言ゲームのように情報の発信者と最終的な受け手の間に人が介すると、情報は伝わりにくくなると思われがちですが、不思議なことに、実はより多くの情報が伝わる可能性もある、ということがこの論文で分かりました。

 でももしかしたらこの結論も、「妥当な予測と言えるかどうかは、少し疑問」かもしれませんね。

(本書は『16歳からのはじめてのゲーム理論』の内容を漫画化したものです。)