世界的に有名な企業家や研究者を数多く輩出している米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院。同校の准教授であり、さらに東京大学のグローバルフェローとして活躍する経済学者・鎌田雄一郎氏の『16歳からのはじめてのゲーム理論』は、著者の専門である「ゲーム理論」の本質をネズミの親子のストーリーで理解できる画期的な一冊だ。
ゲーム理論は、社会で人や組織がどのような意思決定をするかを予測する理論で、ビジネスの戦略決定や政治の分析など多分野で応用される。そのエッセンスは、多くのビジネスパーソンにも役に立つものである。本書は、各紙(日経、毎日、朝日)で書評が相次ぎ、竹内薫氏(サイエンス作家)、大竹文雄氏(大阪大学教授)、神取道宏氏(東京大学教授)、松井彰彦氏(東京大学教授)から絶賛されている。その内容を人気漫画家の光用千春さんがマンガ化! 大反響WEB限定特別公開の連載最終回(全7回)です!

【マンガ】東大グローバルフェローが教える コロナ禍で「買い占めをする人」はバカなのか?
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人が何かするのには「理由」がある

【解説コラム】

 さてこれで、ネズミ親子が人々の意思決定を「鼠瞰(ちゅうかん)」する物語の、最終章が終わりました。

 この章の物語は、ネズミの娘が父を「バカ」だと言い、Y夫人が大家さんを「気まぐれ」だと言い、Y君が先生を「気分屋」だと言う、という話でした。

 そしてそのそれぞれが、そういった自分の考えを改めるに至ります。

 この話のカギになる「人が何かするのには、理由がある」という考え方をゲーム理論で表現したものは、実は、「均衡」と名のつく諸概念を定義する際に適用されるものです。

ゲーム理論で最も重要な考え方

 この均衡という概念については、『【マンガ】東大グローバルフェローが教える「スピード違反」の取り締まりは、なぜランダムが有効なのか?』で紹介したジョン・フォン・ノイマン氏やジョン・ナッシュ氏がその基本形を唱えて以降様々なバリエーションが提案されてきましたが、そのほぼどれにおいても、この「人が何かするのには、理由がある」という考え方は重要になります。

 何かあったら、もしくはあると思っていた何かがなかったら、短絡的に人の不合理のせいにするのではなく、その理由を考える。

 これはゲーム理論で最も重要な考え方と言っても過言ではないでしょう。

社会の見方が変わる

「人が何かするのには、理由がある」なんて当たり前で、「考え方」と呼ぶほどのものでもない、と思われる方もいるかもしれません。しかし実際には、Y夫人のように、我々はついこの当たり前のことを見逃してしまいます。

「人が何かするのには、理由がある」の重要な論点として、もう1つ話をさせてください。

 それは、このように考えると社会の見方が変わる、ということです。特に、人の行動を変えたいと思っているときには、この考え方は有効です。

あの人はなぜサボるのか?

 2つ例を出しましょう。

 たとえば、あなたの周りにサボっている人がいるとしましょう。それはあなたの部活の仲間かもしれないし、あなたの会社の部下かもしれません。

 このとき、「ああ、あの子はサボる子だから」と片付けてしまっては、そこで議論終了です。

「サボるな!」と叱責するのが関の山でしょう。

 翻って、「なんでサボるんだろう」と考えれば、「『大会でベスト8』などの具体的な達成目標がないのが問題」とか、「練習を指導する先輩が高圧的なのが問題」とか、「仕事を頑張ると給与にどう結びつくかがクリアになっていないのが問題」とか、問題点・改善点が見えてくるかもしれません。

買い占めする人はバカなのか?

 では、次の例。

 新型コロナウィルスはいまだに我々の生活に大きな影響を与えていますが、特にこれが話題になりだした当初、日本でもアメリカでも、「買い占め行動」が問題となりました。

 ここで、「買い占めをする人はバカだ」と決めつけるのは結構ですが、それではそこで議論終了、どう対応していいか分かりません。

 それよりも、なぜ買い占めをしなくてはいけない状況なのか、どのように制度を変えたら買い占めを防げるのか、という方向で考える方が、ずっと筋が良さそうです。

人間の社会生活を分析する学問

「人が何かするのには、理由がある」。これは、我々人間の社会生活において非常に重要な考え方なのではないか、と私は思います。

 そしてそんな「人間の社会生活」を分析するのが、ゲーム理論なんですよ。

(本書は『16歳からのはじめてのゲーム理論』の内容を漫画化したものです。)