保険診療制度はゆがんでいる。根管治療や義歯はその代表格だ。真面目に丁寧に治療しようとすればするほど損をする。かかる手間とコストに保険点数が見合っていない。特集『決定版 後悔しない「歯科治療」』(全23回)の#12では、保険診療の土台は歯科の世界でも静かに軋んでいる現状を見つめる。根管治療や義歯治療の中の、どのプロセスがどうおかしいのか。(ダイヤモンド編集部論説委員 小栗正嗣)
歯科医がきちんと手間をかけるほど損をする
保険診療の根管治療に「やっていられない」
「保険診療では、生真面目に手間をかけて治療しようとすると、赤字になってしまう。割に合わない」
都内の歯科医がこう唾棄するのは、保険診療の根管治療のことだ。他の歯科医も「きちんと手間をかけるほど損をする」と口をそろえる。
根管治療とは、歯髄と呼ばれる歯の神経にまで達した虫歯の治療。歯の内部に入った細菌を除去し、痛みや腫れを取り除く。
歯の根管は直径1mm以下と非常に細く、また枝分かれした複雑な構造になっている。そこで汚染された歯髄を徹底的に除去し、洗浄・消毒して根管内を無菌状態にしなければならない。
根管治療は高度で繊細な技術を要し、また丁寧な治療が求められる。「自分たち歯科医の総合的な実力が問われる治療」(首都圏の歯科医)だという。それが保険診療として公的医療制度の対象となっているにもかかわらず、「割に合わない」「やっていられない」と歯科医たちからブーイングを浴びているのはなぜか。
根管治療のプロセスと、その作業に付けられている保険点数を見ていこう。そのどこがおかしいのか。