コングロマリット化戦略によって強みを失ったソニー

 今からちょうど10年前の2012年8月、ソニーは収益力の低下に直面し、業績予想を下方修正。配当計画に関しても未定とした。背景には、1990年代以降の事業戦略の失敗があった。

 最も影響が大きかったのが、コングロマリット化戦略だ。ソニーは家電に加えて、金融、音楽・映画のエンターテイメントなど複数の異なる事業を傘下に抱えた。その主たる目的は、収益源を多角化し、景気変動による業績のブレを抑えて成長を加速することだった。

 しかし、コングロマリット化戦略によって、ソニーは一時、自らの強みを見失ったと考えられる。例えば、金融ビジネスで成長するには、まず、可能な限り低いコストで資金を調達する。その上で、より高い利得が期待できる分野に資金を融通する。

 2000年代に入ってからの米国で一時急増した「NINJAローン」(No Income=無収入、No Job=無職、No Assets=無資産の個人向け融資)はその代表例だ。米国の投資銀行はNINJAローンを証券化し、表面的には信用リスクを抑え、かつ高い利回りが期待できる金融商品を販売して巨額の利益を手に入れた。

 イメージとしては、左から右に物を動かすように、低コストで資金を借り、可能な限り高いリターンが予想される分野に貸す。それが群集心理の高まりにつながり、バブルが発生、膨張することがある。金融ビジネスは、音響や半導体などに関する基礎研究を重ねて、新しいモノを生み出すことと大きく異なる。

 コングロマリット化戦略によって、ソニーはモノをつくるのか、コンテンツを生み出すのか、それとも金融で生きていくか、本業が分からなくなってしまった。その一方で、90年代以降は世界全体で国際分業が加速した。それにより各社は自らが最も得意とする分野に集中できるようになった。

 韓国ではサムスン電子がデジタル家電や半導体分野で急成長を遂げ、米国ではアップルがiPhoneなどの大ヒットを実現した。台湾や中国ではデジタル家電などの受託製造産業が急成長を遂げた。他方、わが国ではバブル崩壊の影響によって景気が低迷した。その結果、ソニーの競争力が低下した。