リストラとイメージセンサやゲーム事業の成長

 2012年以降、ソニーは選択と集中を進めた。まず、資産売却や人員削減などのリストラを強化。それらで得た資金を、CMOSイメージセンサなどの半導体事業、PS5およびゲームソフト開発、さらに映画や音楽分野に再配分した。

 人工知能(AI)の開発や米ゲーム会社のバンジー買収など、ソフトウエア分野の事業運営体制も強化した。その上で、イメージセンサや画像処理などのソフトウエアを、自動車などと結合した。

 ソニーはモノづくりの原点に回帰し、新しい需要を生み出そうとした。その戦略は高い成果をもたらした。2011年末から21年末までの間、ソニーの株価上昇率は947%。同じ期間のTOPIX上昇率は173%だった。高成長を実現した背景には、過去の成功体験に浸るのではなく、リストラを進めてより成長期待の高い分野にヒト・モノ・カネを再配分しなければならないという経営トップの危機感があった。

 ただし、かつてのソニーには、今日とは異なるアニマルスピリットがあふれていた。ソニーのDNAは、世界をあっと驚かせる、全くもって新しいモノを世界に提供することだ。

 新しいモノの創造によってソニーは世界の人々の生き方を変えた。その象徴が、1979年に発表された「ウォークマン」だ。規模感は異なるが、「ハンディカム」や「トリニトロンテレビ」にも同じことがいえる。いずれも共通するのは、すでに形作られているモノを改良するような発想ではなく、常識にとらわれない発想を実現したことだ。

 誰もが思い付かなかったモノを、ライバル企業に先駆けて世界に提示し、需要を生み出す。その力を失わなかったからこそ、1990年代以降、競争力が低下する中でもソニーは生き残ることができた。ある意味では、2012年以降の10年間で、ソニーは新しいモノを創造するというオリジンに立ち返りつつある。