「年収を扶養内に抑える」は
長い目で考えると損の場合も

 細かく説明していくと、かなり長くなり、かつ複雑な話になるので、ごく大ざっぱに話をする。

 例えば妻が専業主婦である場合を例にすると、働いていても年収が一定の金額を超えなければ夫の所得から配偶者控除が適用され、税負担が少なくなる。あるいは、夫の扶養家族となるため社会保険料を負担しなくても良い。

 この税や社会保険料の優遇を受けるために、仮にチャンスがあっても「あえて収入を一定額以下に抑える」ということが行われてきた。

 具体的に言うと、社会保険には「106万円の壁」といわれるものが存在する。それまで年収105万円で働いていたときは社会保険料の負担はなかったが、その収入が110万円に増えると厚生年金等の各種保険料の負担は年間約16万円増えることになる。

 せっかく年収が5万円増えても、負担が16万円増えたのでは差し引き11万円の損となってしまう。そこで、意識的に年収を抑えて106万円を超えないようにすることから「壁」といわれるのだ。

 これは目先の損得だけを考えたら、合理的である。ところが長い目で考えると、印象がガラリと変わる。仮に壁を越えて働いた場合、今の時点での保険料の負担は増えるものの、将来は妻も厚生年金が受け取れることになるからだ。

 先ほどの例で言うと110万円で働いた場合、65歳からは毎年6万円ほどが受給できる。これは終身で支給される。

 50歳の主婦が10年間働き、その後65歳から厚生年金を受け取り始めた場合で考えてみよう。10年間の負担増は、前述の11万円×10年間=110万円となる。だが、65歳以降は厚生年金が毎年6万円ずつ入ってくるため、83歳でその金額は逆転する。つまり、負担増よりも給付増の方が大きくなるということだ。

 さらに、長生きすればするほどその差は拡大する。現在でも女性の平均寿命が87歳以上であることを考えた場合、長生きする女性にとっては悪くない選択肢だろう。