空気を変えたくて、「窓」が生まれた

「窓」はどのようにして生まれたのだろうか。2000年、次世代リーダーを発掘・育成するソニーユニバーシティに阪井さんが最年少の23歳で選出された当時のソニーは、業績、株価ともに絶好調。しかし阪井さんは、将来を楽観視する社内の空気に違和感を持っていた。その思いをぶつけたとき真っ先に反応したのが、当時のCEO出井伸之さんだった。

「ソニーの設立趣意書には、『いたずらに規模の大を追わず』と記されています。儲け主義を排し、真に国民の価値を追求するという意味です。創業者である井深大さんや盛田昭夫さんの薫陶を受けた出井さんは、組織が肥大化していく中、ずっとこの言葉を自問自答されていたんだと思います」

 空気を変えたい。ふと「窓」という言葉が浮かんだ。人々の思いやエネルギーが距離を超えて空気のように流動する世界。それをソニーが作るべきではないか――こうして、阪井さんは「窓」の開発を始めた。

旅好きな阪井さんは、マチュ・ピチュにある石造りの神殿を「窓」でつなげたいと思ったという 旅好きな阪井さんは、マチュ・ピチュにある石造りの神殿を「窓」でつなげたいと思ったという Photo:shutterstock

 翌2001年には「窓」の原型となる設計ができあがった。2010年に世界初カメラ内蔵テレビ「BRAVIA LX-900」として製品化。さらに、2011~2014年にかけてSkype内蔵BRAVIAとして製品化した。だが、「発売前は絶対ニーズがあると言われていたにもかかわらず、想定通りには使ってもらえなかったのです」(阪井さん)

 そこからは、機能や解像度、リアリティを追求するだけでなく、人間の認知や無意識の感覚に訴えるアプローチが必要だと考えるようになった。

「今も終わりなき旅の途中です。だた、ウォーターフォール的なアプローチでは、ここまで来れなかったでしょう。未来を予測しすぎないこと。その責任が取れるのは、自分の中で『窓』が組織の動きに左右されないライフワークとなっているからです」