「仕事=会社」ではない
親が子に伝えるべきこと

 ある親御さんが銀行に勤めていたとしましょう。銀行員であることは子に教えていても、銀行の中のホールセールなのか、リテールなのか、運用なのか、投資銀行業務なのかといった、どんな部署でどんな業務をしているのかということまで子に話している親は、ほとんどいないのではないでしょうか。

 たとえば、リモートワークで仕事をしている親が、パソコンの前で頭を下げている様子が「大変そうだな」と映ったとしたら、その電話の相手は大口の取引先かもしれません。「仕事が大変でね」と言ったとしても、自分の部署で具体的にどういう問題が起こり得るのか、取引先や顧客とどういうやりとりがあるのか、コンプライアンスに気を遣うというのはどういうことか、どのくらいの期間にどれくらいの件数の営業ノルマがあるのかなどということまで、お子さんには話していないのではないでしょうか。

 イソップの寓話に、こんな話があります。旅人がある町で、同じ仕事をしている3人のレンガ職人に「あなたは何をしているのか」と尋ねると、1人目の職人は「レンガを積んでいる」と答えます。2人目の職人は「塀をつくっている」と答えます。そして3人目の職人は「後世に残る大聖堂をつくっている」と答えるのです。

 これはジョブ・クラフティングという考え方で、目の前の仕事を自分が貢献すべき目的と関連づけて考えることで、仕事へのモチベーションを上げるため方法ですが、どんなに偉大な仕事でも、分解すると「レンガを積む」という単純作業から成り立っており、人はそこに関わることで、偉大な仕事の一部を担うことができると解釈することもできます。

「●●自動車」という企業はありますが、「●●自動車(社名)」という仕事はありません。その会社の仕事は細分化すると、製品の企画、在庫管理、M&Aの査定、ディーラーの管理や開拓、総務、会計、お客様相談センターの業務、経営企画、人事など無数に存在します。

 どうか、ご自身の仕事に関する具体的な話をお子さんにしてあげてください。一番身近な社会人である親の仕事のディテールが見えることで、お子さんの目は自分が就職したい会社の社名ではなく、具体的な業務内容に向くはずです。それは間違いなく、お子さんが会社ではなく本当の意味での仕事を探す、就職を志すきっかけとなります。