唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント9万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊された。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されている。今回は、「フェイク・バスターズ」(NHK)出演で話題を呼び、『すばらしい人体』をはじめとする著書で、「正しい医療情報・健康情報」をわかりやすく発信している山本健人氏が書き下ろした原稿を特別にお届けする。

【NHK「フェイク・バスターズ」出演で話題】医師が教える「怪しい医療・健康情報」にダマされないための方法Photo: Adobe Stock

医療の情報はどこで集める?

 私は講演でよく、「医療に関する情報収集を行う際、何を用いるか」という問いかけをする。想像通り、インターネットと答える人が大多数だ。

 中高生が相手でも結果は同じで、まず「ググる」ことから始める人がほとんどである。

 実際、総務省が行ったアンケート調査でも、8割近くの人がインターネットと答えている(1)。

 一方、「どの情報源が信用できるか」と質問を変えると、本や新聞などの紙媒体を挙げる人が多い。インターネットには怪しい情報が多い、と考える人が多いためだ。

 この傾向は、紙媒体に慣れ親しんだ中高年層に限らない。中高生に尋ねても、ほぼ同じ回答が返ってくる。

本は信頼できるのか?

 特に、本への信頼は厚い。私たちは幼い頃から、「本を読むことは大切だ」と教え込まれているためだろう。

 確かに、本によって得られる知識は多く、読書が大切なのは間違いない。だが、医療情報を収集する目的において、本は必ずしも推奨できる媒体とは限らない。

 書店や図書館に行くと、科学的根拠の乏しい「健康法」や、独自の「治療法」を勧める本に数え切れないほど出会うからだ。

「〇〇を食べるとがんが消えた」
「〇〇を治すために実践した秘密の健康法」
「〇〇を揉むと△△予防になる」

 多くの患者さんが、こうした情報の海に翻弄されてしまう現実がある。

問題になった新聞広告

 科学的根拠の乏しい医療本の新聞広告が問題になったこともある。

 2019年11月、朝日新聞社は「朝刊に掲載した書籍広告につきまして」と題した文章を公式サイトに掲載した(2)。

 ある本の新聞広告に対し、専門家から批判が相次いだためだ。その文章で述べられた問題点は、こうである。

 あるイタリアの医師が推奨する独自の「がん治療」を紹介する本の広告で、この医師は、「がんは真菌(カビの一種)によって起こる」「重曹殺菌と真・抗酸化食事療法で多くのがんは自分で治せる」と主張し、紙面の広告中にもこのような表現があった。

 だが彼は、この理論に基づく高額な処置で、結果的に複数の患者を死に至らしめたことがある。2006年と2018年に2度の服役をし、すでにイタリア医学界から追放された、と現地メディアが報じている――――。

忘れてはいけない現実

 広告表現は、広告主の責任においてなされるものだ。新聞報道と同等の信頼性が担保されるわけではない。当然、医学的に誤った情報を掲載する本が、新聞で宣伝されることもある。

 こうした当たり前の現実が、改めて認識された事例であった。

 本を使えば、表現の自由に守られた世界で、思うままに発信できる。科学的根拠が不十分だからといって、その発信を妨げることはできない。それもまた、当然の事実だ。

Googleの対策

 一方、インターネットはどうだろうか。

 Googleはこれまで、信頼性の乏しい医療・健康情報の問題点を重く見て、様々な対策を行ってきた。

 2017年12月、Googleは「医療や健康に関連する検索結果の改善について」と題したページを公開した(3)。科学的根拠の乏しい医療情報が検索結果に並びにくいよう、検索アルゴリズムが大幅に修正されたのである。

 その後もアップデートは絶えず繰り返され、この数年で検索結果は劇的に変化した。

 私は以前からこの変化をつぶさに観察してきたが、一昔前は想像もできなかったほど、検索結果の安全性は増したと言える。

 誤った医療・健康情報は、時に人命を奪う。命を守るためにも、こうした「情報の交通整備」は必要なのだ。

SNSにあふれる誤った医療情報

 もちろん、私はここで「インターネットは本より安全だ」と問題を単純化するつもりはない。

 科学的根拠に基づく、分かりやすい医療・健康本も多くある一方、インターネットやSNSにも誤った医療情報は依然としてあふれている。

 また、私も医療に関する本を書く著者であり、本は大切な発信の手段だ。

 では、私たちはどのようにして誤った情報から身を守ればいいのだろうか。

医療情報を見極めるコツ

 重要なのは、「出典を明示した発信かどうか」を見極めることだろう。

 信頼できる論文や、学会等の専門家集団からの発信、ガイドラインが出典として示されていること。独自の理論のみに基づいた発信ではないこと。これらを確認し、複数の情報を比較検討することが大切だ。

 なお、私が勧めるのが、学会サイトの情報集である。

 あまり知られていないが、多くの学会が、公式サイトで一般向けに分かりやすい情報集を掲載している。がんについては、国立がんセンター「がん情報サービス」がお勧めだ。

 私のサイトでは、信頼できる医療情報サイトのリンク集(https://keiyouwhite.com/guideline-for-patients)を掲載している。

 ぜひ、参考にしていただきたいと思う。

検索を諦めることも大切

 そして、これらの情報集で解決しないときは、「それ以上の検索を諦めること」も大切だ。

 無理に自力で問題解決を図ろうとせず、医療機関を受診し、専門家の診察を受けていただきたいと思う。

【参考文献】
(1)https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc122310.html
(2)https://www.asahi.com/corporate/info/12878786
(3)https://developers.google.com/search/blog/2017/12/for-more-reliable-health-search?hl=ja

(※本原稿はダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)