それでは「幸福物質」セロトニンが、ますます減ってくるからです。

 神経伝達物質のセロトニンは、人生の幸福感と密接に結びついています。

「幸福物質」セロトニンの材料となるのは、トリプトファンと呼ばれる「必須アミノ酸」の一種。「必須」というのは、人間の体では作り出せないので、食べ物から補給するしかないという意味です。

 つまり、それくらい大切な成分なのです。

 トリプトファンは、タンパク質から作られます。ですから、肉を食べてタンパク質を摂取することが、セロトニンを増やすことになります。

 セロトニンは、もともと脳内に微小な量が存在していますが、加齢とともに減少してきます。したがって、齢を重ねるほどに、意識して肉を食べるなどして、不足するセロトニンを補う必要があるのです。

 60代になると、セロトニンは、ただでさえ少なくなっているので、補充しなければ、元気もなくなりますし、幸福感も薄れてきます。「とくに体を動かしているわけでもないから、肉なんて食べなくてもいいだろう」という淡白な考え方はよくありません。

 むしろ、肉を食べないから、体を動かさなくなったとも言えるのです。

 さらに、外食もせずに、家に閉じこもるようになると、気分も沈んできます。

 昼もぼんやりとしている時間が多くなれば、当然、熟睡できなかったり、目覚めがスッキリしなかったりするようになります。そうなってくると、いちばん怖いのはうつ状態です。

 意欲や好奇心がなくなり、日常生活にメリハリがなくなってくるのですから、認知症に似た状態になってきます。気分が高揚することはめったにありません。

 そういう気分を吹き飛ばすのが、70代からの「元気の素=肉」なのです。肉に含まれるタンパク質などの栄養素は、私たちの体を元気にするという肉体的メリットだけではありません。

 私たちの心を高揚させる、精神的なメリットもあるのです。

執筆・監修/和田秀樹
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。和田秀樹カウンセリングルーム所長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。一橋大学経済学部非常勤講師、東京医科歯科大学非常勤講師、川崎幸病院精神科顧問。