デザイナーの力で、パーパスが「地図」になる

「絵で考える」デザイナーの力で、ビジョンやパーパスに血を通わせるPhoto by KOHEI SOEDA

――デザイナーの「異なるものをつなげる力」を、企業のビジョンやパーパス作りに生かすためには、経営者はどうすれば良いでしょうか。

 僕がパーパスやビジョンの策定に関わる方法は、いわゆるコンサル的な方法とはかなり違います。手前みそではありますが、最大の違いは「そのアウトプットに人を動かす力があるかどうか」にあると考えています。パーパスなりビジョンなりを、行動指針にまで落とし込む――。こうした視点は、最終のアウトプットを担う立場であるデザイナーならではだと思うのです。

 20年に開業した「HOTEL THE MITSUI KYOTO」のブランディングでは、「日本の美しさと」というコンセプトを打ち立てました。「と」で終わっているのは、続きにさまざまな言葉を入れて行動指針にしてほしいからです。例えば「日本の美しさとあいさつ」とか、「日本の美しさと身だしなみ」と入れてみるとどうでしょうか。細かいルールに頼らなくても、ゲストをもてなすために何をすべきか、どう振る舞うべきかが共有できると思いませんか。

 パナソニック株式会社の場合、「Life tech & ideas」というミッションを掲げています。このミッションをさらにそしゃくしながら、パナソニック株式会社で働く人々の行動指針となるにはどうしたら良いかを考えました。そこで、社員の方々とのディスカッションを繰り返し、「Make New “    ” Panasonic」というアクションワードを設定しました。

 組織としてのパナソニックは、これ以上ないほど成熟しています。これから必要なのは、個人の能力です。だから、新入社員も役員も一人一人が空白に何かを書き込んで、未来のテーマを作っていこう――。そんなメッセージです。例えば品田正弘社長はここに「未来の定番」という言葉を入れ、臼井さんは「Standards」という言葉を入れて「Make New Standards Panasonic」と表現しました。新入社員も、入社式の日に、「Skill」「Value」「Shine」など、それぞれの思いを書き込んでいました。9万7000人の社員全てがテーマを作り、行動すれば、企業は確実に変わります。パーパスをただの「お題目」にせず、未来へ導く「地図」にするためには、やはり表現者のスキルが必要だと思います。

「絵で考える」デザイナーの力で、ビジョンやパーパスに血を通わせるPhoto by KOHEI SOEDA

――作ったパーパスを社内に浸透させることに苦心している企業は少なくありません。デザイナーと共創すれば、浸透のフェーズまで見据えたパーパスが構築できそうです。

 そうですね。全てのデザイナーがそうであるとはいいませんが、少なくとも僕は「絵や画像で思考している」感覚があります。だから、経営者の方々とビジョンやパーパスについて言葉で議論しながらも「どんな絵でアウトプットするか」を常に意識しています。

 デザイナーの「絵で考える力」を活用すれば、パーパスの最終形にたどり着きやすい。「世界観を一緒に作りたい」「大義をしっかり社会に届けたい」という経営者にとって、デザイナーと組む意味は大きいのではないでしょうか。