今からちょうど10年前、2012年に稲盛和夫氏と中国の青島に一緒に行ったことは、忘れられない思い出だ。本稿では、不肖ながら私が、盛和塾で実体験したこと、稲盛氏を尊敬する点、ビジネスパーソンにとって参考になると思えるエピソードを抽出して伝えたい。(著述家 山中俊之)
「経営の神様」稲盛和夫氏とは
「立ってないで、そこにお座りください」
そう私に声を掛けてくれたのは、稲盛和夫氏その人であった。
稲盛氏が私財を投じて設立した稲盛財団が、米国のシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)に派遣する「イナモリフェロー」を選抜する際の面接のことである。書類選考に合格して面接に進んだ私は、稲盛氏ご本人が面接をされるとは知らず、突然目の前に現れた「経営の神様」に驚いて言葉を失い、突っ立っていたのだ。
米国ワシントンDCにあるCSISは、キッシンジャー元国務長官が理事を務めるなど世界有数のシンクタンクと言われる。運よく面接に合格した私は、イナモリフェローとして2009年と10年に渡米。CSISにて公共政策とグローバルリーダーシップというテーマで研さんを積んだ。
その後、稲盛氏が塾長を務めていた経営者向け勉強会「盛和塾」にも入塾することができた。熱心で優秀な経営者が数多く集まる中、末席ながら稲盛氏の実践的経営学を学ぶことができた。
盛和塾では、塾生が自分の経営体験を発表して、「経営問答」と称して稲盛氏が助言するスタイルがとられていた。多くの中小企業の場合、経営課題は経営者自身の内面的な問題に端を発していることが多い。例えば従業員への配慮不足や傲慢(ごうまん)さ、怠惰を指摘するような稲盛氏の助言は、直接的で厳しいものがあった。
稲盛氏については極めて多くの書籍や論考が出ている。本稿では、不肖ながら私が、盛和塾で実体験したこと、稲盛氏を尊敬する点、ビジネスパーソンにとって参考になると思えるエピソードを抽出して伝えたい。