システム同士がつながることで
協調領域と競争領域が大きく変わる

入山先生と白坂先生

白坂 「System of Systems」とは、簡単に言えば、本来独立していた「システム」同士がつながることです。

 この概念は、先ほどのSociety 5.0とも相互に関連しています。サイバーとフィジカルが人の介在なしでつながると、サイバーはこれまでもインターネットでつながっていましたので、まるでフィジカル側が連動しているように見えてくるんですね。

 例を挙げますと、病院の診察の予約を行うとします。すると、予約した時間に間に合うように車が自動的に迎えに来てくれる。その車に乗って病院へ向かう途中、渋滞に巻き込まれたとします。すると、到着時間に合わせて予約時間が更新される。ないしは診察を待つ人の予約の順番が入れ替わる。病院の予約システム、自動車のシステム、渋滞情報といった、個々のシステムがつながり、大きなシステムを構成しています。こういったことが、病院とモビリティが連携し、サイバーとフィジカルがつながると、できるようになる。

 もう少し、System of Systemsの例を挙げます。

 たとえば、INCOSE(インコゼ/The International Council on Systems Engineering/システムズエンジニアリングの国際評議会)が発行するハンドブック(『Systems Engineering Handbook』)では、一眼レフカメラと、プリンタをもとに解説しています。

 一眼レフカメラもひとつのシステムですし、プリンタもひとつのシステムです。これらをつなげて、「一眼レフカメラで撮影し、プリンタで印刷する」という仕組み(システム)をつくる。それぞれ独立したシステムですが、それらをつなげることで、「写真を撮って印刷する」システムができる。これもSystem of Systemsです。

System of Systems『Systems Engineering Handbook』を参考に編集部作成

 これまでのシステムでは、基本的に「誰か」が全体の品質をみていました。でもSystem of Systemsでは、誰も全体の品質をみていなくても、ユーザーがつなげて使うということが、普通に起こり始めたんです。一眼レフカメラで写真を撮ってうまくいかなければ、カメラのメーカーで調べてもらう。プリンターで印刷しようとしてうまくいかなければ、プリンタのメーカーで調べてもらう。でも、これらがつながった状態でうまくいかないと、原因はカメラ側なのか、プリンタ側なのか、その間のケーブルなのか、よくわからない。

「全体の品質の担保がなされてない仕組み」というものを、社会のインフラとして、あるいは、生活の基盤として、使い始める時代がすでに始まっていて、そこでは、今までとは違い、何が原因で誰が悪いのかがよくわからない、ということが起き始めた。スマートグリッドやスマートシティ、インダストリー4.0 のIoTにしても、全部そうなんです。

 とはいえ、こうしたSystem of Systemsはこれからもどんどん増えますし、私たちも企業も、当たり前のように利用していきます。では、System of Systemsが広がったときに、私たちはどうすべきかというと、協調と競争が「縦割り」から「横割り」へと、社会と産業の構造が大きく変わったということを認識しなければいけません。

 どういうことか言いますと、先ほど、Society5.0では、人間中心・ユーザー起点の社会をつくることをめざしていると言いました。顧客がサービスを受けるときのプロセスを可視化する手法を「カスタマー・ジャーニー」と読んだりしますが、これまでもジャーニーを考えること自体は行われていました。病院で診察を受けて会計をするまでのジャーニー、モビリティを利用する人のジャーニー、薬局で薬を受け取るときのジャーニーなど、それぞれ、人間中心・ユーザー起点で考えようという取り組み自体は、もう本当にいろんなところでおこなわれています。

 これまでは、車は車、病院は病院、というのが産業のひとつのカテゴリーになっていて、その中で協調領域と競争領域がありました。自動車産業なら「道路」という協調領域の上で、「どのような車(モビリティ)を造るか」で競ってきました。「縦割り」で協調と競争をしてきたんです。