「つながる社会」では
トリプル・ループで学習する

白坂 さらには組織学習においてもまったく同じことがいわれていて、「シングル・ループ学習」と、「ダブル・ループ学習」、2つのループがあります。

 組織は、ある前提条件に基づいて設計されており、その結果、ルーティーンが存在し、ルーティーンを実施する行動がある。そのルーティーンをより良くしていくのが、日本人が得意な「カイゼン」であり、これにあたるのが「シングル・ループ学習」です。

 これに対して、そもそも、何をやるべきかという、その組織の前提条件が変わってしまったら、まず「前提条件が変わった」ということを学ばなければならない。これを「ダブル・ループ学習」というんですね。

 さらに、ここに前回ふれた「System of Systems」の概念が加わってくる。これが難しいのは、たとえば、自動車会社と病院は産業が違うのに、この2つがつながったときに何かうまくいかないことがあったり、新しいことが起こったりしたら、この2つは歩調を合わせなければなりません。片方のみで学習することはできず、取り巻く環境そのものを双方が学ばないといけないんですね。これが「トリプル・ループ学習」というものです。私たちが「つながる社会」をつくろうとしたら、つながっている人同士で、一緒に学んでいかなくてはならない。

 今はインターネットを通じて、あらゆるものがつながっているので、「学ぶ」ということが、単に個人や、ひとつの企業の話ではなく、みんなで学習し、取り組まなければならない。組織の範囲を超えなくてはならない。それが、今の組織学習論からいえることです。

トリプル・ループ学習Neilsen(1996)およびSeo(2003)をもとに白坂氏作成

レイヤーをきちんと切り分けて
「システム」の設計をする

入山先生入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。慶応義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)など。

入山章栄(以下、入山) 外部環境が変わった場合、対応できるところから、「自動で対応する」「自動で回復・回収する」といった設計が、ものづくりやガバナンス、組織づくりに必要なのでしょうか。

白坂 そうですね。変化が起きたら対応するといっても、ゼロからつくり直したら意味がないわけで、そこはレベルによってだいぶ違ってきますが、「ここが変化しそうだから、ここは変化に対応しやすくしておこう」「ここは自動で対応できるようにしておこう」といったことを、レイヤーを切り分けて決めていく必要があると思います。

 たとえば、自動運転車のシステムで考えてみるとします。「赤信号で車が止まる」ということ自体は、恐らくしばらくは変わりません。

 今は車体のカメラで赤信号を認識して止まりますが、近い将来、赤信号であることを認識する手段が、カメラから通信へと変わっていくはずです。「V2X」(「Vehicle/自動車」と「X/何か」を連携する技術やシステムの総称)で、車がインフラから「今は赤信号」という情報をもらって止まることになります。でも、「赤信号で車が止まる」ということ自体は変わっていません。

 レイヤーをきちんと切り分けて考えれば、必要なところを、モジュール設計や自動で切り替える設計にできます。変わりやすいところは変えやすく、変わらないところは安定化させるよう、考慮して設計をする。

 ものづくりであっても、ガバナンスであっても、組織づくりであっても、同じことが起きているのではないか、それについて今、研究しているところです。