「外部環境が変わらない」前提から
「外部環境はどんどん変化する」前提へ

白坂 「社会の変化に対応すべきなのに、OSの不具合の対応のためだけにOSだけをがっちりつくりこむことは、あまり得策ではないのでは」ということに気づき、「ディペンダビリティ  OS」をがらりと変えて、「ディペンダビリティ・エンジニアリング・フォー・オープンシステム」(Dependability Engineering for Open System)をつくる方向へと、方針転換をしたんです。

白坂先生

 たとえば、あるビジネスのために、それに特化したITシステムをつくったとします。けれども、そのビジネスモデルがだめになったら、システムをつくった人は何も悪くないのに、そのシステムは環境に適合しなくなってしまいます。このように、「外部」との関係性が変化するシステムのことを「オープンシステム」と呼びます。

 何かの仕組みをつくる、つまりシステム化するには、まずは、「外部」との関係性を定義(要求定義)します。「外部は変わらないもの」と仮定して定義していたんですね。昔は物事や環境がそれほど目まぐるしく変わるということはなかったので、そのぐらいの時定数にしておいても問題がなかった。でも、今の世の中、外部との関係性はどんどん変化しています。この変化に対応していかなければならない。

 このオープンシステムに対して、いかにディペンダブルな(信頼できる)ものにしていくかを考えているのがこの協会であり、そこで生まれたのが「IEC 62853 Open systems dependability」という標準規格です。

 ここで提唱している「DEOSサイクル」には、大きく2つのサイクルがあります。内側のサイクルは、「不具合があったら直しましょう」というオーソドックスな障害に対してのサイクルで、外側のサイクルは、「そもそもこのシステムをつくった目的や前提条件が変わったときに、設計し直さなくてはならない」というサイクルです。

 私のようなものづくりをしていた人間からすると、外側のサイクルは過去になかった。内側のサイクルを意識するだけでなく、外側のサイクル、つまり、「外部環境が変わったら自分たちのシステムに影響を及ぼす」ということを、意識しなければいけなくなったんです。

アジャイル・ガバナンス出典:経済産業省 「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2:アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて」報告書(2021年7月)

 元は、ITや製造業など、ものづくりの世界の話でしたが、それだけではないと言いだしたのが実は経済産業省です。たとえば、ガバナンスでも同じことが言えて、条件が変われば、ガバナンスも進化させなければならない。変化があったらそれに対応する。経済産業省が提唱するガバナンスモデル「アジャイル・ガバナンス」も、「DEOSサイクル」と同じく二重ループになっています。