知られざる超エクセレントカンパニー
変革の全貌
―今、再び注目を集める企業に何が起きているのか

 実はこれ以前に、マイクロソフトについて印象的な出来事があった。日本マイクロソフト前社長の樋口泰行氏にインタビューしたとき教えてもらった「プロダクティビティ・フューチャービジョン」の存在だ。

 マイクロソフトは、創業者のビル・ゲイツ氏が会社を率いていた時代から、よく未来を予測したコンセプト動画を作っていたという。未来はこんな世界になっているというイメージを実際の映像に落とし込んでいるのだが、これが極めてよくできていた。

 私がよく覚えているのは、2009年に作られたフューチャービジョンである。

 透明のアクリルボードに子どもが絵を描いているのだが、その向こうにも子どもがいて、こっちを向いて絵を描いている。よく見ると、手前と向こうでは国が違う。1枚の透明なボードを間にはさみ、人種の異なる子どもたちがITを通じた透明ボードの絵によって国境を越えてコミュニケーションをしているのである。しかも、描いた絵が自動的に動いて動画のアニメーションになったりするのだ。

 もうひとつ鮮烈だったのは、建築家らしき人が設計をしている場面。コンピューターを使っているのだが、マウスもキーボードも使わない。空中で両手を上げ、回したりひねったりすることで、スクリーン上のものが自在に動くのだ。

 また、デスクの上に置かれていた薄い新聞紙のようなものは、実はモニター。指先の操作ひとつで、画面は次々に切り替わる。

 映像は今もネット上で見ることができる。しかも、10年前の映像なのだ。これを見れば、タブレット端末など、まだまだ過渡期だということがわかる。

 プロダクティビティ・フューチャービジョンは、見ていて本当にワクワクした。こんな未来をマイクロソフトはつくろうとしているのかと驚いた。そしてビデオの中には、すでに現実のものになった技術もある。

 縁あって、他にも何人もの日本マイクロソフトの方々にインタビューさせてもらう機会を偶然、私は得ていたのだが、実はマイクロソフトに関しては、もうひとつの強い関心があった。先にも書いたような超エクセレントカンパニーであるにもかかわらず、日本ではその全貌がなかなか知られていなかったということである。

 もちろん、ITの専門家や書き手の間では、優れた会社であることはよく知られていた。また、今マイクロソフトでとんでもない変革が起きていることについても注目されている。会社の記者会見に行けば、多くの記者が押し寄せるし、数万円もの参加費を払って数千人もの人々が押し寄せるテックイベントもある。また、最近では20代の技術系の学生、若い会社員を中心に就職人気も高まっている。

 だが、一般の人にはそうしたイメージは正直ない。ここまで乖離があるのは、マイクロソフトという会社が一般の人向けに語られることがあまりない、ということに起因しているのではないかと気づいた。