絶対悲観主義を
身に付ける方法

絶対悲観主義楠木建氏の著書『絶対悲観主義』(講談社+α文庫)。日立Webマガジン「Executive Foresight Online」上での連載、“楠木建の「EFOビジネスレビュー」”(2018年8月20日~2022年4月25日)の連載をベースに、絶対悲観主義というテーマで通底するよう再構成・加筆した一冊

「最近は、SNSの発達によって、発信者が最も輝く瞬間を目にする機会が増え、そうした投稿に活力を得て『自分も成功できるはずだ』と奮い立つ場合もあると思います。うまくいかないから頑張らなくてもいいというわけではありませんし、楽観的に考えるほうが生きやすい人もいるでしょう。しかし、自分もそうあるべきなのにうまくいかない、と落ち込んでしまう人にこそ『絶対悲観主義』は有効な心構えです」

 絶対悲観主義でいれば、ハードな仕事にも自然体で取り組めると楠木氏は提言する。

「若い頃、カナダのマギル大学のヘンリー・ミンツバーグから仕事を手伝ってほしいとの依頼がありました。インターネットが発達していない頃です。とりあえずモントリオールのホテルに来いというので行ってみると、部屋のベッドの上に一冊のファイルが置いてあったんです。そこには資料と地図が入っていて、明日ここにきてとりあえず何かやってくれというメモが。経験も乏しいため悪戦苦闘しましたが、『うまくいかなくて当たり前』だと思えば苦になりません」

 失敗を自然と受け入れるようになれば、過度な期待や漠然とした成果への不安に悩む必要はなくなる。

 自分に都合よく考えるのではなく、何事においても「うまくいかない」前提に立って仕事に取り組む『絶対悲観主義』は、現代人が自然体で生きていくために必要な心構えなのかもしれない。

楠木建(くすのき・けん)氏

一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授などを経て、2010年より一橋ビジネススクール教授。著書に、『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』(東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(プレジデント社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(晶文社)などがある。