かつて海底ケーブルの主役は大手通信会社だった。しかし、今の建設ラッシュをけん引するのはグーグルやメタ(フェイスブック)などの米IT大手だ。猛スピードで巨大プロジェクトを推し進める米IT大手の狙いは何か。特集『日本経済の命運決める 海底ケーブル大戦』(全7回)の#3では、海底ケーブル業界の主役交代が、どんな影響をもたらすのかを探った。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
海底ケーブル利用の主役が17年に逆転
通信会社からコンテンツ提供事業者へ
通信業界の「裏切り者」――。
海底ケーブルの世界では、大手通信企業の間でこう陰口をたたかれる日本企業がある。
米調査会社のテレジオグラフィーによれば、海底ケーブルの主なユーザーは、2010年では7割近くを通信事業者が占めていた。しかしグーグルやフェイスブック(メタ)などの米IT大手を代表とする、インターネット上でコンテンツやサービスを提供する事業者による利用が急伸し、ついに17年に通信事業者を逆転した。
大量に海底ケーブルを使うグーグルやメタは、利用するだけではなく、自前で海底ケーブルを建設するプレーヤーとしての地位も高めている。
グーグルは4月、日本とカナダを直接結ぶ初の海底ケーブル「Topaz」を23年に開通させる予定だと発表。この他にも20本以上の海底ケーブルにグーグルは出資しており、現在の建設ラッシュをけん引する主役だ。
グーグルグローバルネットワーク部門のビカーシ・コーリー・バイスプレジデントは、「あらゆる分野でデジタル化が進み、海底ケーブルを非常に速いペースで構築する必要性が本当に高まっている」と強調する。
最先端の光通信技術と、数千キロメートルにも及ぶ海中での巨大工事が組み合わさった海底ケーブルは、極めて参入障壁が高い業界だ。障害が起きにくいルートはどこか。ケーブルを敷設する海底地形をどう調べるのか。各国の許認可の取得や建設用の船の手配、漁業者などとの調整に至るまで、ノウハウの塊だ。
海底ケーブルを利用する“超優良顧客”になるはずだったグーグルに、ノウハウを蓄積するチャンスを与え、強烈なライバルへと育てた日本企業の行動は、競合の通信事業者の目には裏切り者に映る。
次ページでは、グーグルに飛躍のチャンスを与えた日本企業の実名と共に、グーグルやメタなどの米IT大手が海底ケーブルの建設を推し進める狙いを深掘りする。