日本経済の命運決める 海底ケーブル大戦#4写真提供:NEC

海底ケーブル“世界3強”に名を連ねるNECが、「世界一」を目指して攻勢に出ている。6年前の「歴史的黒星」を挽回し、米メタの海底ケーブルの受注に成功。大西洋を横断する海底ケーブル敷設に初進出する。ITの世界で海外勢に敗れる日本企業が続出する中、なぜNECは海底ケーブル業界で3強として生き残れたのか。メタの受注を射止めた切り札は何か。特集『日本経済の命運決める 海底ケーブル大戦』(全7回)の#4は、海底ケーブルベンダーの勢力争いに迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)

世界3強のNECが悔やむ「歴史的黒星」を挽回
「因縁」メタの大西洋横断ケーブルを受注

 海底ケーブルの受注で歴史的な「黒星」――。

 世界の海の底に張り巡らされ、膨大なデータ通信を可能にする海底ケーブルの数は年々増え続け、2022年には計画中のものも含めて530本に達した。米調査会社のテレジオグラフィーによれば、総延長は130万kmを超えたという。

 最大で水深8000mでも25年間にわたって安定稼働し、数千キロメートルにも及ぶ繊細な海底ケーブルを製造・敷設することができるベンダーは世界でも限られる。これまで延べ30万km、地球7.5周分もの海底ケーブルを手掛けてきたNECは、米サブコムと仏アルカテル・サブマリン・ネットワークス(ASN)と共に“世界3強”に名を連ねる。

 海底ケーブル敷設シェアの約9割を占めるベンダー3強には“縄張り”がある。米国はサブコム、欧州はASN、日本はNECだ。国の許認可取得や沿岸部の地形の把握、漁業者との調整など、敷設エリアで積み重ねてきた地元企業のノウハウが、受注の際に有利に働くからだ。

 そんなNECには6年前の苦い記憶がある。20年に完成した日本・米国・フィリピンを結ぶ太平洋横断海底ケーブル「JUPITER」の受注を逃してしまったのだ。

 これまで日本に陸揚げする海底ケーブルの大型案件で、NECが関われないことはほとんどなかった。ところがJUPITERは16年秋に実施された入札で、サブコムが単独受注したのだ。

 当時のNEC幹部は、「金額で負けた」とし、「NECの唯一の黒星だった」と悔やむ。しかし、業界ではこんな見方がある。

 JUPIERの建設を発注したコンソーシアム(共同事業体)は米メタ(フェイスブック)、米アマゾン・ドット・コム、日本電信電話(NTT)、ソフトバンクなど6社。そして同時期にメタが出資した他の海底ケーブルはサブコムが受注していた。このため、JUPITERの入札も、「メタがお気に入りのサブコムを推した」と業界ではうわさされていた。

 そんなNECが21年10月、メタの大西洋横断海底ケーブルの受注に成功し、建設を開始した。NECが大西洋の海底ケーブルを手掛けるのは初めてだ。

 次ページでは、NECが“因縁の相手”でもあるメタから海底ケーブルの受注に成功した切り札や、3強として生き残ることができた理由と世界一への野望など、海底ケーブルベンダーの勢力争いに迫る。