地球生命史がわかると、世界の見え方が変わる

 文学に感銘を受けると人生が変わるものだが、本書も同じだ。地球生命の誕生と絶滅の物語を知ると、石油や地球温暖化や絶滅危惧種や顎や耳や更年期などについて深く考えるようになり、世界の見え方が違ってくる。それは人生が変わるということだ。

 ところで、私は、ほとんどの生き物の名前をインターネットで画像検索し、「ほぉ、こんな姿なのか」と驚きながら、何カ月もかけて翻訳したのだが、私みたいに暇でない読者も多いだろうから、いったいどうしたものか、編集の田畑博文さんに相談した。

 そして、原著者ジーの許可を得た上で、写実的なイラストで定評のある竹田嘉文さんに四〇点以上のイラストを描いてもらうことになった。すべての生き物のイラストを入れることはできなかったが、これは邦訳だけの「おまけ」なのだ!

本書の4つのポイント

 さて、本書を翻訳し終えた時点での、私なりに大局的なポイントを(参考文献なども交えて)整理してみたい。

 1.地球生命を語るときに欠かせないのが、酸素や二酸化炭素、そして大陸の移動や氷河の分布、そして海流(特に深層海洋大循環)の役割だ。

 物理学的には地球には三つの変動要素がある。まずは太陽のまわりの公転軌道が楕円で、その楕円も伸縮すること。そして、地軸が傾いており、その傾きも変動すること。

 最後に地球の時点軸がコマの首振りのように歳差運動していること。このような天文学的な変動のせいで、地球は一〇万年ごとに寒くなったり暖かくなったりをくり返してきた。

 本書でもかなり詳しく説明されているが、氷が増えて海水面が下がったり、氷が溶けて、海水の塩分濃度が下がって、それが深層海洋大循環を弱め、さらに気候変動が進むなど、地球環境ってなんて複雑なのだろうと驚かされる。

 ちなみに、気候変動については、最新の知見がわかりやすく解説された書物として『南極の氷に何が起きているか』(杉山慎著、中公新書)を参考文献としてあげておく。

 この書物によれば、現在の南極の西部の氷がすべて溶けると地球の海水面が五メートルほど上昇し、南極の東部の氷もすべて溶けると海水面が五〇メートルほど上昇するのだそうだ。

 もちろん、地球の歴史においては、海水面が一〇〇メートルも上昇と下降をくり返してきたわけだが!

 2.地球の大陸の移動の様子も頭に入れておきたい(たとえば、https://gigazine.net/news/20210307-plate-tectonic-billion-year/などをご覧ください)。

 八億二五〇〇万年~七億五〇〇〇万年前には、現在の太平洋に偏っていた超大陸ロディニアが分裂をはじめ、五億四〇〇〇万年前のカンブリア爆発時には、大陸塊が「南」に偏っており、デボン紀から大陸が集まりはじめて、ペルム紀から三畳紀にかけて超大陸パンゲア(そして内海のテチス海)があり、ジュラ紀になるとパンゲアが分裂をはじめ、一億年前にアフリカ大陸やユーラシア大陸ができあがった……。

絶滅した人類の遺伝子を引き継ぐ

 3.どうしても整理しておかなくてはいけないのが、ヒト族とホモ属という言葉の使い方だろう。

 本書のヒト族は「hominins」であり、9章の注釈11でも詳しく触れられているが、かいつまんで述べると、とにかく、ヒトに近い親戚である「ヒト族」と、遺伝的に離れた「チンパンジー、ゴリラ、オランウータン」を分ければいいのだ。

 ヒト族には、ホモ・サピエンス、ホモ・ネアンデルターレンシス(=ネアンデルタール人)、ホモ・エレクトゥスなどのホモ属の他に、アウストラロピテクスやパラントロプスなども含まれる(文献によってはホモ属をヒト属と呼ぶ)。われわれはホモ・サピエンスであり、ホモ属の唯一の生き残りである。

 ここで問題になるのが、ヒト族の祖先のうち、「誰」がわれわれの直接の祖先であり、誰がわれわれの系統とは大昔に分岐してしまったのかである。

 まず、いまから七〇〇万年~一〇〇〇万年前にヒト族とチンパンジーの系統が分岐した。

 その後、いまから三〇〇万年以上前にアウストラロピテクス・アファレンシスがいて、われわれの直接の祖先であり、そのなかには「ルーシー」という有名人もいる。身長は一メートルちょっとで直立歩行をしていた。

 二三〇万年~二八〇万年前のアウストラロピテクス・アフリカヌスは、われわれの系統から分岐した先の枝におり、われわれの直接の祖先ではない。同様に、パラントロプスもわれわれの直接の祖先ではない。

 その後、ホモ属もさまざまに分岐したが、ホモ・サピエンス以外は滅んでしまった。しかし、本書の記述にもあるように、われわれの多くは、絶滅したホモ・ネアンデルターレンシスの遺伝子を受け継いでいる!

 人類の進化について、わかりやすい参考文献をあげておく。『図解 人類の進化』(斎藤成也 編・著、海部陽介、米田穣、隅山健太著、講談社ブルーバックス)。