知る人ぞ知る問題解決メソッド、「問題解決の7ステップ」がついに書籍化する――。マッキンゼーで最も読まれた伝説の社内文書「完全無欠の問題解決への7つの簡単なステップ」の考案者であるチャールズ・コン氏みずから解説する話題書『完全無欠の問題解決』(チャールズ・コン、ロバート・マクリーン著、吉良直人訳)が注目を集めている。マッキンゼー名誉会長のドミニク・バートンは「誰もが知るべき、誰でも実践できる正しい問題解決ガイドがようやく完成した」と絶賛、グーグル元CEOのエリック・シュミットも「大小さまざまな問題を解決するための再現可能なアプローチ」と激賞している。本書では、「自宅の屋根にソーラーパネルを設置すべきか」「老後のためにどれだけ貯金すればいいか」といった個人の問題や「販売価格を上げるべきか」「ITの巨人に訴訟を挑んでいいか」といったビジネス上の問題から、「HIV感染者を減らすには」「肥満の流行をどう解決するか」といった極めて複雑なものまで、あらゆる問題に応用可能なアプローチを紹介している。本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。

問題解決でよくある7つの失敗Photo: Adobe Stock

問題解決でよくある7つの失敗

 学校、大学、企業、非営利団体において問題解決への関心が高まっているにもかかわらず、優れた問題解決とは何かについて混乱が見られることがある。多くの人が陥る落とし穴と、よくある失敗を以下にご紹介しよう。

失敗1 問題定義文があいまいなまま分析に入る
 多くの問題定義文には、具体性が足りず、意思決定者の基準や制約の明確さが欠け、問題が解決された場合に起こるアクションの指示がなく、問題解決のための時間枠や要求される精度の水準が書かれていない。あいまいな問題定義文に沿ったまま分析プロセスに入ると、長時間労働とクライアントの不満が募ることは明らかである。

失敗2 過去の経験のみに基づいて解決策を断言する
 その解決策が目下の問題に適しているかどうかを検証しないまま、経験や類似の問題(「これは前にも見たぞ」という発言)に基づいて答えを断言する人が多い。このような答えは、可用性バイアス(手元の事実にのみ基づいている)、アンカリングバイアス(すでに見たことのある数値範囲を選ぶ)、確証バイアス(自分の先入観に合致するデータだけを見る)などに悪影響を受けている。

失敗3 問題を細かく分解しない
 私たちは、構成要素に分解することなく解決できる問題を、ほとんど見たことがない。オーストラリアのシドニーでの喘息の症例を調査しているあるチームは、罹患率と重症度に沿って問題を分解して初めて、この問題に対する重要な洞察を得ることができた。

 シドニー西部の喘息の罹患数は、シドニー北部と比べて10%しか高くなかったが、死亡率と入院率は54~65%も高かった。チームは、喘息と社会経済的地位や樹木被覆率の関係性を示す研究のことをよく知っていた。

 実際に調査をしてみると、シドニー西部では社会経済的地位が著しく低く、樹木被覆率はシドニー北部の約半分しかなく、1日あたりの粒子状物質(PM2.5)の最大値は50%も高いことがわかった。チームは、問題を分解する適切な分岐点を見つけることで、問題の核心に焦点を絞ることができた。その結果、PM2.5を吸収するために植樹をするといった自然な解決策で、呼吸器系器官の健康に取り組むという革新的なアプローチを提案することになった。

失敗4 チームの構造や規範を軽視している
 マッキンゼーやその他の組織での経験上、チームによる問題解決において、以下の項目の重要性が浮き彫りになっている。つまり、グループ内に多様な経験や多様な意見を持つ人がいること、新しい意見やアイデアに対して開かれていること、競争的にも協力的にもなれるグループ内の力学、バイアスによる影響を減らすトレーニングやチームプロセスの重要性などである。このことは、予測に関する最近の研究でも強調されている[*1]。

 経営者は、意思決定バイアスを減らすことを業績改善のための第一目標に挙げている[*2]。たとえば、共著者のロブが担当していたある食品会社は、赤字事業から撤退しようとしていた。累積損失が1億2500万ドルに達した時点で撤退の申し出に応じれば、損失を止めることが可能だった。

 しかし彼らは、簿価(元のコスト)を回収できる提案しか受けようとしない。この損失回避(サンクコストバイアスの一種)が原因で、数年後、最終的に5億ドル以上の損失を出して撤退することになった。

 似たような経歴を持ち、伝統的なヒエラルキーに属している経営者たちの集団思考[訳注:能力の高い個人でも集団になると非合理的な意思決定を下してしまう現象]が、正しい選択肢を明確に見極めることを困難にしている。これは、ビジネスではよくあることなのだ。

失敗5 分析ツールが不完全
 単純な計算で解決が可能な問題もある。しかし、時間をかけ、洗練された技術を使わなければならない問題もある。たとえば、どんなに回帰分析を行っても、変数をコントロールして妥当な反事実を検証できるようにデザインされた実世界での実験には敵わない。また、チームが適切な分析ツールを持っていないために失敗することもある。

 よく見るのは、将来のキャッシュフローの現在価値ではなく、過去の収益率で試算したために、資産に対する入札が過剰に高くなることである。同様に、開発オプションや放棄オプションといった金融オプションのような概念が明示的に評価されていない資産の場合、入札額が低くなることがある。オーストラリアの資源企業BHPがこの問題にどのように取り組んだかは、本書の第8章にまとめてある。

失敗6 分析結果と、行動を促すストーリーとを結びつけない
 分析指向のチームは、分析が終わってしまうと「これで終わり」にしてしまうことがよくあり、複雑な分析結果をどのように統合して多様な聞き手に伝えるかについて考えない

 たとえば、生態学者は、自然や都市緑地が人間の幸福を促進するという側面を指摘してきた。しかし、生態系サービス[訳注:生態系の中で人類の利益になる機能のこと]という専門用語を前にすると、このメッセージはしばしば見落とされてしまう。

 たとえば、蜂が受粉で果たす重要な役割、樹木がPM2.5の吸収に果たす役割、集水域が飲料水の供給に果たす役割などだ。大気汚染の場合なら、喘息や心臓血管疾患といった人間の呼吸器系の健康改善に結びつけられると、話はさらに説得力を増す[*3]。

 この場合、輪を完成させるように、人間の健康という「フック」に引っ掛けた説得力のあるストーリーを描く方法を見つけると、聞き手を魅了し、行動を起こさせるうえで、大きな違いが生まれる。

失敗7 問題解決のプロセスを反復しない
 問題が一度で解決されることはほとんどない本書で議論している問題は、仮説、分析、結論の間を行ったり来たりして、その都度理解が深まるような雑多なものが多い。問題の理解度が深まるにつれて、イシューツリーを二度三度繰り返しても構わないし、そうする価値がある実例を示したいと思う。


*1 Philip Tetlock and Dan Gardner, Superforecasting: The Art and Science of Prediction(Random House, 2015). フィリップ・E・テトロック、ダン・ガードナー著、土方奈美訳『超予測力:不確実な時代の先を読む10カ条』早川書房、2016年
*2 Tobias Baer, Sven Hellistag, and Hamid Samandari, “The Business Logic in Debiasing,” McKinsey Latest Thinking, May 2017.
*3 Planting Healthy Air(The Nature Conservancy, 2016).

(本原稿は、チャールズ・コン、ロバート・マクリーン著『完全無欠の問題解決』を編集・抜粋したものです。この伝説の問題解決メソッドについて知りたい方はこちらの記事をご覧ください)