「あれ? いま何しようとしてたんだっけ?」「ほら、あの人、名前なんていうんだっけ?」「昨日の晩ごはん、何食べんたんだっけ?」……若い頃は気にならなかったのに、いつの頃からか、もの忘れが激しくなってきた。「ちょっと忘れた」というレベルではなく、40代以降ともなれば「しょっちゅう忘れてしまう」「名前が出てこない」のが、もう当たり前。それもこれも「年をとったせいだ」と思うかもしれない。けれど、ちょっと待った! それは、まったくの勘違いかもしれない……。
そこで参考にしたいのが、認知症患者と向き合ってきた医師・松原英多氏の著書『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』(ダイヤモンド社)だ。
本書は、若い人はもちろん高齢者でも、「これならできそう」「続けられそう」と思えて、何歳からでも脳が若返る秘訣を明かした1冊。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、脳の衰えを感じている人が陥りがちな勘違いと長生きしても脳が老けない方法を解き明かす。
アナタは普段どのくらい外出しますか?
【前回】からの続き 内閣府の調査によると、40~64歳のひきこもりは、全国に61万人以上いると推計されています(出典:平成30年「生活状況に関する調査」)。ひきこもりとは、就学(学び)、就労(働くこと)、家庭外での交遊などの社会的な参加を避けて、6か月以上おおむね家庭内にとどまり続ける状態です。
ひきこもりだと孤独に陥りやすく、高齢になるほど認知症リスクが高まります。内閣府が行った調査では、「普段どのくらい外出しますか?」という問いに対して、次の①~④で「はい」と答える状況が6か月以上続いていたら、ひきこもり状態にある者としています。
① 趣味の用事のときだけ外出する
② 近所のコンビニなどには出かける
③ 自室からは出るが、家からは出ない
④ 自室からほとんど出ない
ただし、①~④に該当する人でも、次の(ア)~(ウ)のいずれかに該当する人は、ひきこもりには該当しないと、内閣府で定義しています。
(イ)身体的な病気がきっかけで現在の状態になったと回答した者
(ウ)現在の状況を専業主婦・主夫、家事手伝いと回答したか、現在の状態になったきっかけを妊娠、介護・看護、出産・育児と回答した者のうち、最近6か月間に家族以外の人とよく会話した・ときどき会話したと回答した者
「退職」をきっかけにひきこもり
ひきこもりの誘因はさまざまですが、もっとも多いのは「退職」です。定年退職だけでなく、リストラや倒産などで職を失うと、ひきこもりに陥りやすいと考えられます。バブル経済崩壊後の「失われた30年」に続いて、新型コロナ感染拡大による経済の停滞が長引いたことにより、ひきこもりとその予備群は増えた可能性は高いです。
ひきこもりの理由にはこの他、「人間関係がうまくいかなかった」「病気」「職場になじめなかった」といったものがあります。そして全体の半数近くが、ひきこもってから7年以上経過していると回答しています。また、全体の70%以上が男性でした。
1人でひきこもっていると、運動量も会話も減ります。趣味など自分だけの狭い世界に閉じこもっていると、外からのリアルな刺激が乏しく、脳の血流量が減り、活動量も減ります。長年ひきこもりを続けていると、セルフ・ネグレクト(自己放任)に近い状況となり、認知症のリスクがますます高まるのです。
深刻化する「8050問題」
問題は、ひきこもった人をサポートする家族にも波及します。「8050(ハチマルゴーマル)問題」という言葉をご存じでしょうか。これは80代の親が、ひきこもっている50代の子どもと同居し、生活を支援する世帯の急増を指した言葉です。大阪府の豊中市社会福祉協議会の勝部麗子さんが名づけ親で、人気作家・林真理子さんの『小説 8050』の題材にもなっています。
かつてひきこもりは、不登校やニートの増加を背景とした若年層の問題と考えられてきました。ところが、ひきこもりから立ち直れなかった人たちも含め、リストラや失職を経験した中高年でも、ひきこもる人が増えてきたことで、8050問題が表面化しました。
共倒れの“最悪の事態”を避ける
親子ともにさらに高齢化が進んだ現在では、「9060問題」が生じつつあります。90代の親が、ひきこもりの60代の子どもを支えているのです。
年金くらいしか収入がない高齢の両親にとって、無職のわが子の面倒を見るのは経済的に大きな負担となります。それに加えて、わが子のために両親の社会的な活動にも制約が及ぶようになると、加齢と相まって認知症リスクが高まり、最悪の場合には共倒れの恐れも出てきます。
ひきこもりやそれにともなう8050問題・9060問題は、自分たちの力だけでは解決するのが難しいケースが少なくありません。支援を行う自治体の福祉課や社会福祉協議会などに早めに相談してみてください。
※本稿は、『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』より一部を抜粋・編集したものです。(文・監修/松原英多)