企業の強みを「機能的価値」から「情緒的価値」へ

 経営コンサルタントとデザイナーが連携すべき理由についても、少し述べておこう。経営コンサルタントは、経営に関する専門知識と高い論理的思考力を持ち、迅速な情報整理にたけている。一方、デザイナーは抽象的思考力が高く、アイデアを可視化することにたけている。両者の能力を組み合わせることで、根拠あるコンセプトに沿って一貫した施策や企画を組み立てられるようになり、本質的な企業ブランディングが可能となるのだ。

 実際に私が企業ブランディングに携わって気付くのは、多くの経営者が「自社の強み」を、技術や素材などの「機能的価値」ばかりに見いだそうとすることだ。しかし、機能が高度化すればするほど、機能訴求がユーザーに響きにくくなるというジレンマに陥る。ここにデザインの視点を加えれば、企業の哲学や思い、歴史、風土、人材といった「情緒的価値」も見いだせるようになる。これらの要素を、商品・サービス開発に取り入れ、信念や物語として可視化すれば、ユーザーの心に届きやすくなるのだ。

 現在、私が携わっているプロジェクトの一つに東京都墨田区の老舗米穀店の企業ブランディングがある。ただでさえ人口減少と米離れで米穀業界全体が低迷する中、コロナ禍が苦境に追い打ちをかけていた。そこで、同店独自の技術「古式精米法」や、「五つ星マイスター」を取得している社長のノウハウを生かし、「お米からご飯までの美味(おい)しい食を提供する」という未来図をデザインした。家でご飯を炊かない人も、外食ではおいしいご飯を食べている点に着目し、「米穀」の概念を拡張したのだ。今後、炊き込みご飯やおにぎりを商品とした新店舗出店などの多角化に乗り出す予定である。

バリューチェーンの上流でデザイナーを活用する

 大企業でも中小企業でも、デザイナーにバトンを渡すのは「商品やサービス企画がある程度進んでから」というケースが多い。しかし、デザイナーの参画を「事業の下流領域だけ」に限定するのは、率直に言ってもったいない。できれば上流領域からの参画を促し、経営視点で彼らのスキルを共有してほしい。そうすれば、プロダクトデザインやグラフィックデザインといった「狭義のデザイン」のみならず、潜在する問題や課題を発見し、有効な手立てを構想する「広義のデザイン」においても、デザイナーの能力を役立てられるだろう。

 そもそも「デザイン」とは、生活者が抱える問題を解決して心を豊かにしたり、生活者のニーズに応えて暮らしを便利にする創造性を指す。企業が生活者視点に立った商品やサービスを生み出すためには、デザインの視点が欠かせないのだ。

 もし、あなたの企業がインハウスデザイナーを抱えているなら、まずは彼らを事業の上流領域に参加させてみてはいかがだろう。そして、経営者や事業リーダーが彼らと対話する機会を増やすのだ。それが、デザインを理解する一歩になる。経営者が「広義のデザイン」のリテラシーを持てば、商品・サービスの企画や開発の精度がさらに上がるに違いない。

 デザイナーが社内にいない企業なら、ぜひ外部デザイナーを活用してほしい。私が中小企業と接していて痛感するのは、多くの経営者が孤独であることだ。小さな組織には、経営者と同等の責任や不安を抱えた社員はいない。経営者は、自分と同じ視点で相談できるパートナーに飢えているのだ。企業ブランディングを手掛けるデザイナーは、そうした経営者の良き相談相手、問診医のような存在になり得る。デザインの視点で経営にメスを入れることで、それまでバラバラに動いていた体のパーツが統合されるような感覚を覚える経営者は少なくない。あなたの会社でも企業ブランディングをぜひ検討してみてほしい。

公益財団法人日本インダストリアルデザイン協会(JIDA)
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