自動車や建設など、さまざまな産業と密接に結び付く鉄鋼業界。ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的な資源高や、急速に進行した円安は、鉄鋼メーカーのコスト増を招いている。市場環境が激変した16業界について作成した倒産危険度ランキングで、今回取り上げるのは鉄鋼・金属業界だ。20社が“危険水域”に入った。特集『選別開始!倒産危険度ランキング2022』(全20回以上)の#16は、鉄鋼・金属業界の倒産危険度ランキングを詳報する。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
日本製鉄がトヨタ相手に3度目の値上げ
今期の鋼材平均価格も1トン15.2万円に
過去最高の値上げ――。
鉄鋼最大手の日本製鉄が、大口顧客であるトヨタ自動車に3度目の値上げをのませたことに業界から驚きの声が上がっている。関係者によれば、2023年3月期下半期の自動車向けの鋼材価格を、1トン当たり約4万円値上げすることで両社は合意。値上げは3半期連続で、23年3月期上半期と比べて2~3割となり、過去最大の値上げ幅だという。
実際、値上げ効果は両社の直近の決算に表れている。
日本製鉄が11月1日に発表した23年3月期上半期の売上高は、前年同期比22.5%増の3兆8744億円で、純利益は同24.7%増の3723億円と過去最高を記録。通期の純利益予想も、前期から5.1%増で過去最高となる6700億円へと上方修正した。
利益増に特に貢献しているのはもちろん値上げで、23年3月期の鋼材の平均販売価格は1トン当たり15.2万円と、前期の11万7700円から約3割アップする見通しだ。
一方、トヨタが同日発表した23年3月期上半期決算では、売上高は前年同期比14.4%増の17兆7093億円と過去最高を記録したものの、営業利益は同34.7%減の1兆1414億円と大幅な減益になった。資材高騰による利益の押し下げ効果は7650億円に達し、円安による増益を打ち消した。
通期でも資材高騰による減益幅は1兆6500億円を見込んでおり、日本製鉄による鋼材の値上げの影響は大きそうだ。
値上げムードに沸く鉄鋼業界。新型コロナウイルスの感染拡大で冷え込んだ21年3月期から一転、22年3月期は世界的な市況回復と値上げ効果が後押しし、業績を改善させた企業が続出した。
ただし、値上げが顧客に受け入れられているのは、鉄鉱石や原料炭など原材料の高騰によってやむを得ないと捉えられているからだ。顧客をうまく説得して、価格転嫁できなければ苦境に陥ることは避けられず、企業間の格差が目立ち始めている。
さらに、足元の市況は冷え込み始めた。世界の主要国で相次ぐ利上げ政策が経済の下押し圧力となっており、23年に向けて景気の減速が懸念されている。
日本鉄鋼連盟によれば、9月の国内粗鋼生産量は前年同月比12.3%減の714万トンで、9カ月連続で前年割れが続く。トヨタが23年3月期の世界生産台数を下方修正するなど、自動車向け需要の低迷が危惧されている。
ダイヤモンド編集部が16業界別の倒産危険度を検証したところ、鉄鋼・金属業界では20社が“危険水域”と判定された。高炉メーカーが上位にランクインしたほか、財閥系メーカーも名を連ねた。
次ページでは、危険水域に入った20社の顔触れを見ていこう。