新規事業を起こすのに向かない人材配置と評価制度
そう思った傾向の一つは、人材の配置だ。事業のライフサイクルには、「0→1(ゼロイチ)」と呼ばれる立ち上げ期と、「1→10」と呼ばれる成長期、そして、事業をより大きく展開・維持する「10→100」といったステージがあり、この流れで成熟していく。ゼロから新しい何かを創り出せる人と、大きく育てられる人、新規事業と既存事業では、求められる人材やマインドが異なる。
だが、この企業では、既存事業で活躍した社歴の長い社員や「この人にもそろそろ役職を」という中堅社員が、畑違いの部署から新規事業にアサインされるケースがあるようだ。何事もやってみないと分からないので、それも100%悪いことではないかもしれない。しかし、「何も分かってくれない人が上司になって地獄。前例がない、リサーチ不足、リスクが払拭できないなど、こちらからすれば重箱の隅をつつくような指摘をされ続け、なかなか先に進めない」という声が上がっているというから、少なくともここでは悪い方に働いてしまったようだ。
この上司だって、新規事業を妨害したいとか、若手のやる気をそぎたいと思って指摘しているわけではない。これまでの経験から、よかれと思ってブレーキを踏んでいるにもかかわらず、無自覚にイノベーションの芽を摘んでしまっている状態。やはり適材適所は重要だ。
もう一つが、評価制度だ。新規事業と既存事業では、適した評価制度が異なる。既存事業がこれまでの評価制度でもやっていけるのは、ノウハウが蓄積されており、新規事業と比較して大きな過ちを避けられる可能性が高いからだ。それは、過去に多くの失敗を重ねて学んできた結果でもある。
一方、新規事業は、顧客のニーズそのものが探索対象であり、早く小さく失敗して改善や機能追加につなげていく必要がある。業務プロセスやエコシステムを確立していくのもこれからだ。このフェーズで既存事業と同じように確実性を求めると、事業を成長させるために必要なデータが十分に得られなくなってしまう。