「消費は、『あれ食べた?』『あの番組面白かったよね』という、コミュニケーションツールとしての側面も持っています。SNS普及前は、たとえば学校のクラスの中、部活動の仲間内など、オフラインの環境下で多くの人に消費されていないものを『好きだ』と主張してもリアクションがもらえず、知名度の低いものを堂々と消費するハードルが高かったのです」

 ところが、SNS上では自分の身の回りで消費されていないニッチな趣味でも“同志”が見つけられる。自己肯定感が低いZ世代にとっては、自分の好きなものを認めてくれる環境に巡り合えることで、自己肯定感が満たされていく。こうして、「皆と同じものを消費する」時代から、「唯一無二のものを消費する」時代へ、移り変わっていったのだ。

「1996~2012年生まれのZ世代は物心ついたときにはSNSが隆盛期を迎えていたので、何かを消費するにあたり、“SNSでの反響”を強く意識するのが当たり前という人が大多数を占めています。消費において“SNS”と、そこで得られる“反響”は、彼らにとって不可欠なのです」

長引くコロナ禍で
ヒト消費が盛り上がる理由

 コト消費が落ち着く一方、平成後期から令和にかけて、Z世代で広がりつつある消費行動が「トキ消費」だ。

 トキ消費とは、その時、その場でしか体験できないコトを共有する消費のことを指す。二度と同じ体験ができない“非再現性”、不特定多数の人と体験や感動を共有できる“参加性”、場の盛り上がりに貢献していることが実感できる“貢献性”の三つの欲求を満たそうとする消費行動のことだ。

「オリンピックやワールドカップといったスポーツイベント、ライブやフェスといった音楽イベント、渋谷ハロウィーンに代表されるような季節のイベントなど、その場、そのトキにしか味わえないライブ感という希少性に価値を感じているのでしょう」

 だが、2020年に新型コロナウイルスが爆発的に流行すると、その場、その時限りのイベントに参加する機会は一気に失われた。

「そこで今盛んに行われているのが『ヒト消費』です。ヒト消費とは、『ヒト』自体をエンタメとして捉え、消費していく活動のこと。昨今耳にする(好きなタレントやキャラクターなどを応援する)『推し活』に近いでしょう。元々『ヒト消費』という言葉は存在していましたが、コロナ禍の状況はヒト消費が活発になるには好条件だったのです」

 感染防止対策として人流が制限されるなか、人々は家で消費できるエンターテインメントを求めた。その要望に応えるかのように、多くのアーティストやアイドルがライブ映像の無料公開などを行っていたことは記憶に新しい。

「豊富なコンテンツの無料公開のほか、ヒト消費の活性化に一役買ったのが、日本テレビが放送していた『Nizi Project』をはじめとしたオーディション番組です。誰かを応援する、誰かが努力している姿を見るという行為は、コロナ禍で寂しさを感じていた人々の心を埋めるのに十分でした。そのため、『“推し”がデビューできるように応援しよう!』というヒト消費が流行したのです」

 電通若者研究部「ワカモン」が今年3月に発表した「コロナ禍で加速する推し活!大学生の推し活実態とは?」という調査の結果によると、推し活をしている大学生のうち、男子では3人に1人、女子では4人に1人が、「コロナ禍以降に推し活を始めた」と回答している。外出できない状況では、これまでのようなトキ消費はできない。家に居ながらにして行える消費がヒト消費くらいだったため、初めて「推し活」という文化に触れた若者が増加したのだろう。