「私はなぜこんなに生きづらいんだろう」「なぜあの人はあんなことを言うのだろう」。自分と他人の心について知りたいと思うことはないだろうか。そんな人におすすめなのが、『こころの葛藤はすべて私の味方だ。だ。著者の精神科医のチョン・ドオン氏は精神科、神経科、睡眠医学の専門医として各種メディアで韓国の名医に選ばれている。本書「心の勉強をしたい人が最初に読むべき本」「カウンセリングや癒しの効果がある」「ネガティブな自分まで受け入れられるようになる」などの感想が多数寄せられている。本書の原著である『フロイトの椅子』は韓国の人気女性アイドルグループ・少女時代のソヒョン氏も愛読しているベストセラー。ソヒョン氏は「難しすぎないので、いつもそばに置いて読みながら心をコントロールしています」と推薦の言葉を寄せている。あたかも実際に精神分析を受けているかのように、自分の本心を探り、心の傷を癒すヒントをくれる1冊。今回は日本版の刊行を記念して、本書から特別に一部抜粋・再構成して紹介する。

【精神科医が教える】どんなに不幸な環境でもうまくいく人と、不満の沼にハマる人のほんのわずかな差とは?Photo: Adobe Stock

他人との比較によって不幸が始まる

羨望、ねたみ、嫉妬、これらはすべて自分と他者を比較することから始まります。
比較は「不幸の種」です。

お金を例に考えてみましょう。お金は快適な生活を保障してくれます。
ないよりはあったほうがいい暮らしができるでしょう。
問題は、自分が持っている金額ではなく、他人との比較によって幸せを感じようとしたときに起きます。

他の誰かの月収が300万ウォン(約30万円)のときに、自分が500万ウォン(約50万円)稼げたら、他の人の月収が1000万ウォン(約100万円)のときに、自分が600万ウォン(約60万円)を稼ぐよりも幸せな気持ちになるのです。比較は人を浅はかにします。

ドラマに出てくる富裕層の生活はあまりにも豪勢です。
物質的な豊かさへの尽きることのない欲求は、人間が抱える普遍的な問題です。

自分より多くのものを持つ人々と比較して、自分は不幸だと嘆いていたら、永遠にネガティブ思考の奴隷として生きることになります。

そして、より多くの財を手にしようとするあまり、自分がすでに持っている大切な何かを楽しむこともできず、すべてを失ってしまいます。

その結果、不満の沼にはまって抜け出せなくなるのです。

ねたみもポジティブなエネルギーに変えていける

ねたみは自分のほしいものを他人が持っているとき、嫉妬は自分が持っているものを奪われまいとするときにあらわれます。

嫉妬は、「自分のものだ」と信じているものを守る闘いです。
ねたみは、他人の成功や幸せをうらやみ、持っているものを「奪いたい」という欲望です。

精神分析家の立場から見れば、羨望やねたみの感情にはいい面もあります。
他人をうらやむことによって夢が生まれ、夢があればこそ追いかけて叶えることができます。

平等意識や民主的社会の発展を促すきっかけになる、という意見もあります。
ねたみを抱くことで、世の中を別の角度から見る視点が生まれ、新たな方向性が定まるのです。

ただし、ポジティブな変化を遂げて自分を向上させた場合と、ネガティブな努力でねたましい相手を引きずり降ろそうとした場合では、結果が大きく異なります。

「持てる者」へのねたみが激しくなると、人は自らの貪欲さを棚に上げて、社会的不平等を気にするようになります。公正な富の分配を求めるようになるのです。

もちろん、社会的な平等意識を持つことは重要です。
でも、実際にはなんの行動も起こさず、自分のねたみを隠す道具として、こうした話題を持ち出す人も少なくありません。

しかし、ねたみをポジティブなエネルギーに変えれば、その対象に劣らないように成長しようという意志が生まれます。

たとえば、女性の社会的地位の向上を目的としたウーマンリブ運動は、「なぜ男性だけが優遇されているの?」というねたみがモチベーションにつながって、建設的な方向へ発展したものです。

このように個人的な問題にとどまらず、もっと大きな何かを変えようとする力に転換していくこともできるのです。

(本稿は、チョン・ドオン著 藤田麗子訳『こころの葛藤はすべて自分の味方だ。 「本当の自分」を見つけて癒すフロイトの教え』から一部抜粋・再構成したものです)