世界で重要性増す最先端のロジック半導体
ラピダスは狙い通り、最先端の半導体製造技術を実現し、わが国の新しい需要創出力を高められるだろうか。新しい発想の実現には、より高性能な半導体の製造技術が欠かせない。それが需要を生み出し、経済が成長するからだ。
1990年代以降、米国企業は国際分業を加速させて、ソフトウエアの設計開発に集中した。その結果、スマートフォンをはじめとした新しい需要が創出された。アップルやエヌビディアはTSMCにチップの製造を委託し、経済のデジタル化も加速した。
リーマンショック後、中国は米国の最先端の知的財産や製造技術を急速に習得した。アリババ傘下のアントフィナンシャルなどは、急速にフィンテック事業の運営体制を強化した。TikTokなど新しいSNSプラットフォーマーも成長した。それによって雇用が生み出されたし、中国のチップ需要は一段と増加した。TSMCや韓国のサムスン電子、さらに米インテルも中国での事業運営体制を強化し、成長を遂げた。
世界は「データの世紀」を迎えた。ビッグデータは政治、経済、安全保障に大きな影響を与える。情報セキュリティーの強化のために、量子コンピューティングの実用化も進んでいる。5Gよりも通信速度が速い次世代高速通信サービスの利用も期待されている。一時的に在庫調整が進んだとしても、国家レベルで最先端ロジック半導体の製造体制が強化されるだろう。
ここへ来て、米国は半導体の国内生産増加に向けて支援策を強化している。狙いは、最先端ロジック分野の主導権回復だ。支援策強化に伴い、TSMCやサムスン電子は米国での設備投資を積み増している。わが国の対応が遅れれば、次世代ロジックを中心に国内企業の半導体調達コストは増すだろう。
そうした展開を回避するためにも、ラピダスは設立されたのだ。最先端の半導体製造ライン確立には、1兆円単位の資金が必要である。そのリスクを1社で負担することは難しい。だから、政府のバックアップを取り付けつつ、8社でのリスク分担が選択されたのだ。