東京五輪をやっても競技人口が増えなかった
盛り上がりは一時的

 東京2020開幕から1年経過した今年7月、NHKが大会に参加した競技団体に競技人口がどうなったのかアンケートを行った。

 なお、1964年の東京五輪は、日本のスポーツ界にはすさまじいインパクトを与えた。競技のレベル向上はもちろん、日本代表の活躍を見て感動をした人々がその競技にわっと入ったからだ。その代表が「東洋の魔女」と呼ばれた女子バレーボールだ。日本代表が金メダルを取ったことで、バレーボールをやる女子が爆発的に増えた。

 今回の東京2020も何かしらの影響があるはずだ――。史上最多の58個の金メダルを獲得して日本中を熱狂の渦と化していた。テレビでも朝から晩まで五輪報道で、アスリートの活躍するたびに「感動をありがとう!」と絶叫をしていた。1964年の再現になっていてもおかしくはない。

 しかし、各競技団体からNHKに送られた回答は驚くべきものだった。競技人口やすそ野の広がりについて尋ねたところ、「増加した」が21%だったのに対し、「変わらない」が56%、「減少した」が18%で、合わせて70%以上が、「東京2020」の成果を感じていないという回答だったのだ。

「真夏の大冒険!」とアナウンサーが絶叫したことで話題になったスケートボードなどは競技人口が増えた、なんてニュースもあった。しかし、一方でメダルを獲得した柔道、水泳、アーチェリー、卓球、レスリング、ボクシングなどはブームがきたという話は残念ながら聞いていない。

 筆者は以前から指摘させていただいてるが、これこそが「日本の五輪至上主義」の最大の問題点だ。ナショナリズム丸出しで、メダルが取れるか否かで大騒ぎをするので、競技の魅力より、メダリスト礼賛報道にリソースを割く。結果、五輪はメダリストを芸能界入りさせる「スター誕生」的な役割を果たすだけになってしまう。

 当然、競技の振興にはならないので、競技人口も観客も増えない。五輪の時に注目を集めたマイナー競技も、時間が経過すれば世間の関心が薄れて、平時の試合は観客席で閑古鳥が鳴くようになってしまう。

 実際、NHK放送文化研究所の『人々にとっては“東京五輪・パラ”とは何だったのか〜「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」より〜』によれば、大会後の調査で「スポーツへの関心が高まった」は46%と半数にも満たない。「競技場でスポーツ観戦したくなった」は24%、「スポーツ中継が見たくなった」も21%という衝撃的な結果が出ている。

 また、「盛り上がりは一時的なことに過ぎなかった」と回答した人も65%にのぼった。「世間的には「開催前は中止だ、延期だという話があったけど、やっぱりやってよかったね」という評価が多いが、その一方で大多数の日本人は五輪というものをかなり刹那的に見ていて、「ぶっちゃけスポーツ振興だ、レガシーだ、なんてあんま関係ねえよな」と内心、冷めていたのである。