65歳までの雇用義務化で
浮上した「再再就職の壁」問題

 先に述べた通り、現在の自衛隊では「選ばなければ再就職できる」現状は確かにある。しかし、65歳までの雇用が義務化された昨今において、新たに浮上してきたのが「再再就職の壁」だ。再就職先での定年年齢は、徐々に「65歳まで」とする企業も増えてきているが、当初から「7年」や「3年」と限定されているケースも存在する。

 かつて、年金が60歳から支給されていたころはそれでもよかった。再就職先の任期を勤め上げると、まず年金をもらえることができていたからだ。だが、いまは違う。たとえば、1尉~1曹の退官年齢である55歳から7年勤務したとしてもまだ62歳。年金が支給されるまでには3年もある。また、自衛隊の援護は59歳以下までであれば再度受けることも可能だが、60歳以上になれば受けられない。つまり、自力で再就職先を探さなければならないのだ。

 地方の自治体で防災監を務め、離任後に地元に戻ってきた葛城雄太さん(仮名)も再再就職にの壁に悩まされた一人だ。葛城さんは幹部自衛官として陸上自衛隊に勤務し、陸将、陸将補に次ぐ階級である1佐にまで上り詰めた。退官後は、その知見を買われて地方自治体の防災部局に籍を置くことになった。

 防災部局での仕事も、決して楽なものではなかった。「県の人間は、自衛隊を猛獣だと思っている。自分に求められたのは、災害に備えた計画を準備しておくのではなく、いざ災害が起きたときに自衛隊という猛獣をコントロールする役割だけだった」と振り返る。

「地域住民のために」との思いから提案した葛城さんのやり方は受け入れてもらえず、自治体の役人とは何度ももめた。結果、3年で自治体を後にし、九州地方にある故郷に戻った。「幹部自衛官として培った能力はある。欲をかかず、年収300万円くらいの仕事であればいい――」。そんな希望は打ち砕かれた。

「地方には、まず仕事自体そのものがない。『幹部自衛官』や『自治体の防災監』をどう扱っていいのかもわからない。ハローワークにも通い、100社は受けたがだめだった。『こんな素晴らしい経歴の人は当社では雇えない』という断り文句を何度も聞いた」