テルメズの仏教遺跡群
1~3世紀といえば玄奘三蔵(602~664年)が訪れるはるか前のこと。クシャーナ朝治世下で黄金期を迎えたパキスタン北部ガンダーラ王国の仏教スタイルが、テルメズにも大きな影響を及ぼしていました。玄奘三蔵の見聞記『大唐西域記』では〈〓蜜(〓は口へんに旦)〉という名称で記録されており、「伽藍は十余ヶ所、僧徒は千余人いる」と書かれています。クシャーナ朝時代にはそれ以上に多くの伽藍、そして数え切れないほどの僧院があり、そこで修業する僧も数え切れないほどだったと推測されています。しかし、クシャーナ朝後のイスラム勢力の台頭で、7世紀前半には僧院の大部分は焼け落ちてしまいました。それでも仏教復興にかけた町の様子を、玄奘三蔵はこの地で見ていたのかも知れません。
この地域の仏教遺跡は、元国立民俗博物館名誉教授の文化人類学者・加藤九祚(1922-2016)氏がウズベキスタンの考古学者と共に、生涯を捧げて発掘を行ったところで、数多くの貴重な発見がなされています。また2014年からは立正大学の仏教学部・文学部が共同で学術調査隊を派遣しており、継続的に発掘作業をしている、日本にもひじょうにゆかりの深い場所なのです。こうした事情もあり、テルメズの町の人たちは親日家の多いウズベキスタンの中でも特に日本人に優しく感じます。
見逃せない遺跡をいくつか紹介しましょう。
ファヤズテパ
まず見逃せないのが1世紀頃に建造されたとされる仏塔(ストゥーパ)と僧院からならファヤズテパ。保護のため仏塔は丸いドームで覆われていますが、かつての僧院がどのように機能していたのかを知ることができる重要な遺跡です。またここからは美術的にも世界最高レベルの貴重さをもつ釈迦如来像が出土されており、タシケント国立博物館にオリジナル(2022年10月現在、フランスのルーブル美術館へ貸し出し中)、レプリカがテルメズの考古学博物館に展示されています。