楽天が狙う次の展開
カードとスマホが両輪となって動く

 さて、決算発表の戦略資料によれば楽天グループが復活するシナリオを補強するであろう強みがいくつか数字で示されているので、それも紹介しましょう。

 ちょっと見慣れない表現かもしれませんが、資料には楽天モバイルではCAPEXを40%削減、OPEXは30%削減という数字が出てきます。もう少しわかりやすい日本語で書いていただけるといいのですが、意訳すると楽天モバイルの通信網は仮想化、自動化、オープンアーキテクチャーなど最新のデジタル技術を活用することで、他の携帯電話会社よりも設備投資が40%、運営費用が30%低いというのです。

 これは、後発の携帯電話会社にとって非常に大きな優位性になる点です。しかも面白いことに、その技術を楽天では楽天シンフォニーという新会社を作って世界の携帯電話会社に提供しています。ドイツの1&1やイギリスのヴァージンメディアO2などを相手にすでに31億ドル(約4300億円)を受注しているというのですから、なかなかポテンシャルのある「次なる展開」が見え始めているのだと思います。

 もう一つ、楽天グループの戦略資料には「エコシステムARPUアップリフトを加えるとARPUは2588円」というARPUについての別の説明があります。これは、「楽天モバイルのユーザーは楽天の他のサービスでお金を使うのでそれを加えるとARPUは1472円ではなく実質的に2588円になる」という話です。ただ、もともと楽天市場や楽天カードの収益をモバイルに注ぎ込んでいるので、ダブルカウントにならないようにさきほどの試算の際に意図的に無視させていただきました。

 この点について経済評論家として補足説明させていただくと、実は楽天経済圏というエコシステムでは楽天モバイルよりも楽天カードのアップリフト力の方が大きいのです。楽天市場を中心とする楽天の国内EC流通総額が1.3兆円なのに対して、楽天カードのショッピング取扱高は4.6兆円です。楽天カードは楽天ポイントとともに楽天市場の約3.5倍の消費に使われているのです。

 この楽天カードの発行枚数が2751万枚。その約半分にあたる1303万口座が楽天銀行に開設され、約3分の1にあたる836万口座が楽天証券に開かれています。このように楽天市場と入り口にポイント、カード、決済そしてポイント投資から実際の投資へと経済圏を広げられるのが楽天の本来の強みです。

 そして楽天モバイルに入って1年で契約者の楽天経済圏での利用サービス数はそれまでの5~6の水準から8サービスに増えるそうです。つまりこの先、楽天モバイルの加入者が増えるとこの楽天経済圏のエコシステムはさらに強固になります。

 そうなると先ほど出した「楽天モバイルの加入者数を5年で3000万人に持っていく」という私が勝手に出した数字は、実は楽天グループの戦略的に大きな意味があることも理解していただけると思います。

 つまり、狙いとしては、楽天カードの会員数とほぼ同じ規模に楽天モバイルの契約数が増加する未来を目指すという数字です。

 なぜ私がこの数字を重視するかというと、それがそもそも楽天グループがモバイルに参入した当時に描いていたであろう、カードとスマホが両輪となることで、楽天市場を中心とする楽天経済圏を回していく新しい未来につながるからなのです。

 現実的にはそのゴールに到達するためには毎月50万件ペースで4年間、加入者が純増し続ける状況が必要になります。今の延長線上のペースではなく、どこかで強い風が吹かなければその状況は起きないでしょう。しかし、ポテンシャルとしては風を吹かせる下地は作られている。それを念頭に、楽天グループの復活を楽しみにこれからの推移を見守らせていただきます。